戦禍のウクライナから1000キロの道程を経て、たった1人隣国スロバキアに逃れてきた11歳の少年「ハッサン」のことが大きな話題になったが、『ワシントンポスト』紙は、彼が戦禍を逃れたのはこれが最初ではないと衝撃のニュースを報じた。
親と別れて1人で国境を超えたハッサン
3月9日付けの同紙によると、「ハッサン」はビニール袋ひとつと、パスポート、手の甲に書かれた電話番号だけを頼りに、列車に乗ってウクライナ南部の町ザポリージャを1人で脱出。母親は体が不自由で動けない祖母のためにウクライナに残らざるを得なかった。国境を越えてスロバキアに入国したところでボランティアたちが少年を保護。手の甲に書かれた電話番号で親族に連絡を取り、彼は無事に姉の手に渡された。
10年前にシリア内戦を逃れてウクライナへ
弟を出迎えた10代の姉ルナによると、一家は10年前、シリアに暮らしていたが、シリア人の父親が内戦に巻き込まれて姿を消した後、母の祖国であるウクライナに移住していた。その時、赤ん坊だったハッサンはシリア内戦を覚えていない。ロシアはイランと共にアサド政権の支援に回り、2015年からロシア軍がシリア国内で空爆を行うなど、シリア内戦にも介入していた。ハッサンの家族は二度にわたってロシア軍の攻撃に人生を狂わされたことになる。
UNICEF(国連児童基金)によると、ウクライナからの避難民およそ350万人(*2022年3月21日現在)のうち約半数が子供だという。これだけの数の人が紛争発生からわずか2週間で国を後にするのは、2015年と2016年にシリアの人々が国外流出したのを凌ぐ勢いだという。
https://www.washingtonpost.com/world/2022/03/09/ukraine-refugee-boy-travel-slovakia-syria-war/
そもそも親元を離れて暮らしていた子供もいる
UNICEF(国連児童基金)UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、子供たちの安全を守られなければならないとして、親とはぐれた子供の保護を近隣諸国に呼びかける共同声明を3月7日に出したが、その中で、「ウクライナ国内には児童養護施設や寄宿舎などで親と離れて暮らす10万人の子供がおり、中には障害を持つ子供もいる。こうした子供たちの安全が守られるよう最善の手立てを講じなければならない」としている。
わずか8ヶ月前にアフガニスタンから逃れた家族
ウクライナからルーマニアに逃れた人々の中には、わずか8ヶ月前、アフガニスタンから命からがら逃れてきた家族もいた。
国際NGOセーブ・ザ・チルドレンによると、14歳のサマド君は両親らと、昨夏米軍が撤収して内戦状態に陥ったアフガニスタン東部を逃れ、ウクライナにやってきた。父親が以前ウクライナで働いたことがあったから、というのが移住先にウクライナを選んだ理由だった。家財道具を全て捨て、平和で穏やかな暮らしを求めてウクライナにやってきて、新しい生活を築こうとしていた矢先の今回の戦争だった。
国境を超えてルーマニアに入った時に感じた安堵は、8ヶ月前の経験を改めて思い起こさせたという。「(アフガニスタンからウクライナの)キエフに着いたときと同じ安心感」だったから。現在、一家はルーマニアに難民申請を出しているという。
戦争や紛争により難民となる子どもたち。難民をどのように保護していくかは、21世紀最大の難民クライシスを迎えている全世界が直面している課題だ。