2022年1月28日、「人権外交」を推進する超党派議員である自民・齋藤健衆議院議員、立憲・桜井周衆議院議員、国民・玉木雄一郎衆議院議員、維新・音喜多駿参議院議員が集い、元国会議員でTheTokyo Post編集長の菅野志桜里がファシリテーターを務め、トークイベントを行った。2月1日の「対中批難決議」への言及もありスリリングな展開となった。
目次
「人権外交を語る超党派議員トーク」第5回
人権侵害制裁法にはじまった各論の議論は、諸外国の人権デューディリジェンス法へ展開。はじめに、法制化の概要と日本を含めた各国の整備状況を菅野編集長が解説した。2020年10月にNAP策定を行ったものの、列国の背中を遠く追う状態が続く日本がとるべき道とは。
〈パネリスト・順不同〉
◆齋藤健氏:自由民主党 衆議院議員
◆桜井周氏:立憲民主党 衆議院議員
◆玉木雄一郎氏:国民民主党代表 衆議院議員
◆音喜多駿氏:日本維新の会 参議院議員
◆菅野志桜里:国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長
日本も人権侵害制裁法を持つべきか?
菅野志桜里(以下、菅野):
それでは、この人権デューディリジェンス法なんですけれども、玉木さんからお話を伺おうと思いますけれど、ウェビナー参加者の質問でも、「人権に配慮しなければビジネスもできない状況になりつつあるんだから、むしろ自国の企業を政府がバックアップをしなきゃいけないんじゃないの」というような指摘もありました。
玉木雄一郎氏(以下、玉木氏):
人権とビジネスというのは、トレードオフの関係でいわれることがよくあるんですね。人権ばかり重視したら、中国とかいろんな国と商売できなくなるんじゃないかということがいわれるんですが、私はちょっともう状況が変わってきていると思っていて、人権にきちんと配慮しないと、世界の中で商売ができなくなっていく流れだと思います。
例えばミャンマーではキリンビールさんが(軍事クーデター後)すぐ撤退したりとか、あるいはウイグルのトマトを使わないといったカゴメさんのレピュテーションが上がったりとか、これはプラスの面ですね。いろんな意味で人権に対してきちんと取り組みをしていますということを投資家や消費者に対してきちんと示すことができなければ、そういった企業の財・サービスはこれからサプライチェーンの中から排除されていくと。
そういう枠組みがつくられつつあるんだということからすれば、きちんとしたルールを定め、場合によってはそれを自国企業に対して認定するということを、国がある種お墨付きを与えることをしなければ、自国企業を守ることができなくなってしまい、よってもってビジネスにも経済にも悪影響を及ぼすということになっていくので。したがって、トレードオフではなくて、むしろ人権に対しての配慮、あるいはそれに対しての国家の関与ということが経済政策になってきているということなので、これは遅れることなく法体系なりを整備しないと駄目で。逆に言うとアメリカや同盟国、あるいはデモクラシーの仲間だと思われていた企業は、これを理由に、できていないじゃないかといって日本企業をある意味排除する理由に使ってくるので、これは人権を守らない国に対する対抗策じゃなくて、同じ民主主義を大切にする国々の企業の公正な競争を確保する意味でも整えないと、もうもたなくなっているなという認識です。
菅野:
ありがとうございます。
音喜多さん、今の玉木さんの話でいうと、確かに例えばアメリカの大統領やフランスのマクロン大統領が日本に対して、岸田さんに直接人権制裁法をつくりなさいよとか、デューディリジェンス法がないとおかしいじゃないかとか言ってはいないけれども、でも世界各国のシンクタンクの調査報告書の中には日本の企業が少なからず名指しをされていたりとか、あるいは監視カメラにも日本の名だたる企業の部品がウイグルで使われているんじゃないのという疑惑が報じられたりとか、それこそフランスの捜査当局がフランスの日本企業に人道に対する罪違反で捜査に入ったりとか、間接的にやっぱりそんな逃げ得は駄目だよみたいなプレッシャーが強くなっているような感じもするんですけど、それは日本の議員はどう受け止めて、どうあるべきという、あるいは党内の議論を含めてどんなものなんでしょう。
音喜多駿氏(以下、音喜多氏):
問題意識は近いものをみなさん持っていると思っています。わが党もさきの衆議院選挙の公約の中で、人権等に関する企業の方針や対応が国際的に重視され、経営やビジネスに大きく影響を与え始めていることに鑑み、わが国でも企業の持続可能性を評価する制度を構築しますと、ここまでを公約で掲げさせていただいています。この制度というのが法律なのかガイドラインなのかというのはまだ党内で議論しているんですけども、純自由主義的に言えば、悪いことをした企業は市場に淘汰されていくわけだから、別に国がどうこうしなくたって任せておけばいいじゃないかという考えもある中で、ただやっぱり今国際的な情勢を見ると、片や目の前に覇権国家中国がいて、それにあまりにも市場にルールを任せていると、国際的な思惑の駆け引きの中で日本企業が操作されたりとか、意図せぬ形で淘汰されてしまったりということが起こり得る状況になっていることは間違いないと思うんですよね。
そうであれば、やはりこれはぜひ自由を守る、自由競争を守るためにこそ先手を打って、ガイドラインあるいは法律というのをしっかりと構築をして、国際協力にもしっかり打って出る企業をつくっていくと。経済安全保障の観点からも人権デューディリジェンスの問題というのは、わが党は結構自由主義者が多い政党ではありますけども、でもここは自由をちゃんと守るために、拡大するためにこそ先手を打った対応が必要ではないかというところまでは、党内では大体コンセンサスが取れてきているんじゃないかなと思いますね。
菅野:
なるほど、深い議論をされているんですね。いわゆる人権デューディリジェンスの法制化といっても、何も企業にばかり義務を押し付けるというか、そういう法律である必要もないかもしれないですよね。むしろ名指しされて批判されている企業に対して、ちゃんと日本の政府が情報提供する、そういう政府の側の責任も義務づけることで支えるみたいな、日本企業の経営の自由を支えるという、そういう物の見方もあるのかなと今伺って思いました。
音喜多氏:
おっしゃるとおりです。なので法律をつくる、ルールをつくる、イコール何か市場を締め付ける、企業を締め付けることではないということの誤解を解きながら議論を進めていくということは大事かなというふうに思います。
菅野:
なるほど。
桜井さん、この人権デューディリジェンス、いかがですか。
桜井周氏(以下、桜井氏):
人権デューディリジェンスというちょっと舌をかんでしまうような片仮名言葉からすると、また欧米の価値観で押し付けられて嫌々やらされている感が出てしまうかもしれないけれども、やはりそこはお二人が言われたように、攻めの姿勢でというところもあるんです。
そもそも、じゃ日本にこういう考え方がなかったのかというと決してそんなことはなくて、むしろそれこそ江戸時代の二宮尊徳は、道徳なき経済は犯罪である、経済なき道徳は寝言であるとかそういうことを言っていて、やっぱり商売にもモラルというのは必要ですよねと。そもそも商売というのは、お客さんなり世間の人たちを幸せにするためにやっているものであって、自分だけが暴利をむさぼる、それは駄目ですよというのが江戸時代から日本の商売の中に、経済の中に、精神としてあったと思うんです。ですからそれをある種片仮名にすると、ある部分を切り取ると人権デューディリジェンスということになるんだと思いますから、われわれちょっともしかしたら忘れていたかもしれないですけど、やはり江戸時代から脈々と続く日本の商売の善きところをしっかり思い出して、三方良しというところをもう一度取り戻していくというところを出発点に考えながら、しかしデューディリジェンスをしっかりやっていこうとすると、それは自分の会社の中だけじゃなくて、部品を買ってきたりするとその先も、元もたどっていかなきゃいけないって、これは結構大変なんですよね。大変だけども、やっぱりやらなきゃいけないと思います。
かつ、人権だけじゃなくて、今やもういろんなサプライチェーンの中で、あまりよろしくない、世間にとって世の中にとって、世のためにならないようなことをやった製品は駄目ですよと締め出しを食らうということはいろんな分野で行われていて、例えば環境分野でもそうですし、それこそアップル社が2030年までにカーボンニュートラルを達成しますと。それは自分の会社内だけじゃなくて、全てのサプライチェーンで達成しますと言っているわけですから、そうするとアップル社と取引をしている会社は、もうカーボンニュートラルをやらないといけない。カーボン、地球温暖化ガスに関して全部ちゃんと詳細に調べなきゃいけない。それは自社の中だけじゃなくて、部品を買ってくるんだったら部品についてもそれを確認していかなきゃいけないということですから、人権のみならず、人権はもちろん、人権以外の分野でもデューディリジェンスというのは非常に求められている。そして、わが社の製品というのはちゃんと誰かの不幸の上に、誰かの犠牲の上に成り立って商売をしているんじゃありません。ちゃんとみなさんの幸せのためにわが社は活動していますよということを説明していく責任が出てくる。これはやっぱり経済の基本なのではなかろうかと思います。
菅野:
では、党内の議論って、いわゆる政府はまずはガイドラインからというようなちょっと方向性が出てきている中で、立憲民主党の中で、じゃガイドラインからで足りるのか、やはり法制化まで提案していくべきなのか、そこら辺の議論の状況ってどんな感じですか。
音喜多氏:
これも、1年ぐらい前になりますけども勉強もさせていただいて、この考え方に対して確かにそうだよねということで、党内で特に異論があるわけではございません。ただ、ほかにもいろいろやることがあって、その先の突っ込んだ議論にはまだ進めていないということではありますけれども、各党とも準備を進められていらっしゃるので、わが党もしっかりと進めていきたいと思います。特にこの考え方自体はみんな賛成しています。細かく詰めていきたいと思います。
菅野:
分かりました。ありがとうございます。
日本の産業界、経済界の人権DD認識は不十分
そして、齋藤さん、質問も来ていました。「自民党を動かすのには、肝心の日本の産業界にどんなメリットを提示して中国依存から脱却してもらうのかということが、個人的に大きいんじゃないかと思います」というようなご意見が来ているんですけれども、党内、そして政府の動きはどうでしょうか。
齋藤健氏(以下、齋藤氏):
この問題は、日本の産業界、経済界に、まだまだ大きな問題で大変なんだという認識が不十分だというように思います。それを一気に法制化みたいなところに行くには、まだ企業の準備も意識も整っていないんじゃないかという議論があるので、法制化に対して抵抗があるわけですね。
一方で、今のお話に関して言いますと、究極はどうなるかといいますと、世界はどんどん法制化も含めて、さっき菅野さんが説明したように進んでいきます。そうすると日本がやらないと、日本企業がやらないと何が起こるかというと、日本だけ抜け駆けしているじゃないかと。日本だけ抜け駆けして儲けているじゃないかということになって、これは日本企業に跳ね返ってくる問題なんですね。日本企業は何でびびるかというと、それによって報復されて、中国のマーケットを失うかもしれないということに究極なるわけです。そうすると突っ込んだ究極の議論をすると、その企業は中国を取るのか、それとも要するに先進国家を取るのか、そうじゃない国を取るのかという選択を究極、企業はしなくちゃいけないということになってくる。結論から言えば答えは分かっているわけなので、だからしっかりDD法をやりましょうということになっていくんですけど、なかなかそこまでまだ日本の企業の頭ができていないということです。
それからもう一つ、私が言いたいのは、もし世界でしっかりと人権DDをやっていけば、私は中国の強制労働問題にはとてつもないインパクトがあると思いますよ。強制労働をやる意味がなくなってくるわけだから、だからこれはツールとしては非常に大きい。ただ、さっき言ったように乗り越えなくちゃいけない意識の問題とかいろいろあるので、ハードルは高いんですけど、もし多くの国でこれが実現すれば効果は大きいと思います。
菅野: なるほど。よく政府による制裁は効果があるのかという反論が立てられるんですけれども、逆に言うと企業に……
齋藤氏:
自分でやらなくちゃいけないと思いますよ、もはや。
菅野:
人権DDというのは、そういう意味では極めて効果が高いということが言えるのかもしれないですね。今まだ企業の認識が追いついていないんじゃないかというお話がありました。私自身が外務委員会の質問をしたときに、当時政府の外務大臣だった茂木さんが、環境の認識は高まったと。でも、人権の認識はまだ高まっていなくて追いついていないんだと。だから少しそこにギャップがあるので、そのギャップを埋めていく時間が必要なんだというような答弁だったのを、今齋藤さんの話を聞いていて思い出したんですね。
***
人権デューデリジェンス法の推進について慎重論では「企業の認識が追い付いていない」という理由があがった。しかし、世界の趨勢は日本企業の逃げ得に厳しい目を向け始めていることも事実。次回は国内の人権侵害事例にも目を向ける。
第1回「人権外交」を超党派議員で語る~米中対立の間で日本が果たすべき役割とは~
第2回「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え
第3回 日本における人権侵害制裁法の制定は進むのか 制裁ツールを持つリスクとは?
第4回 人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か
第5回 人権DD法制化を急ぐ理由「人権配慮のない日本企業は排除」が迫る←今ここ
第6回「情報公開」が人権を守る分水嶺 企業にはインセンティブで人権DDを促進
第7回「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」直前、超党派議員の本音
第8回 人権外交のプレーヤーとは?国会・政党・議員・民間はどう連携できるのか
〈プロフィール〉
◆齋藤健(さいとう・けん)
自由民主党 衆議院議員。1959年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経済産業省)へ。埼玉県副知事を務め、2009年衆議院議員初当選。農林水産大臣。衆議院・厚生労働委員会筆頭理事、安全保障委員会委員。自民党においては、団体総局長、税制調査会幹事、選挙対策副委員長、総合農林政策調査会幹事長、スポーツ立国調査会幹事長を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟を発足、共同代表。著書に『増補 転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫))
◆桜井周(さくらい・しゅう)
立憲民主党 衆議院議員。1970年生まれ。京都大学農学部卒。京都大学大学院農学研究科修士課程修了、米国ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。国際協力銀行勤務を経て伊丹市議会議員を務める。2017年衆議院議員当選。党近畿ブロック常任幹事、党政務調査会副会長、党ジェンダー平等推進本部事務局長。財務金融委員会委員、憲法審査会委員。
◆玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)
国民民主党代表 衆議院議員。1969年生まれ。香川出身。元アスリート。ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会 顧問、海事振興連盟 副会長、国際連合食糧農業機関(FAO)議員連盟 幹事長、陸上競技を応援する議員連盟 幹事長、自転車活用推進議員連盟 副会長、ジョギング・マラソン振興議員連盟 副会長、天皇陛下御在位奉祝国会議員連盟 顧問。
◆音喜多駿(おときた・しゅん)
日本維新の会 参議院議員。1983年年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、モエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、都議会議員に(二期)。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、政治や都政に関するテレビ出演、著書多数。三児の父。2019年、参議院東京都選挙区で初当選。
◆菅野志桜里(かんの・しおり) 元国会議員。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長。1974年宮城県仙台市生まれ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上