旧統一教会問題について、これまで消費者庁の検討会で整理されてきた論点を、できるだけ早く、広く、分かりやすく伝えたくて記事にまとめました。
各メディアが連日報道し、各政党も対応策を検討し、国会冒頭では岸田総理も消費者契約に関する法令見直しに言及しています。
被害を防ぎつつ個人の人権尊重する法改正を目指して
国会内外で前向きに解決策が議論されていくなか、この先大事なのは、できるだけ対立構造にはまらないことです。たとえば、「反カルト法に賛成か反対か」というような二分論には余り意味がありません。反カルト法というのは、複数の法律で構成されるフランスのカルト対策のパッケージですから、大変参考にできるパーツもあれば(無知・脆弱性要件の活用など)、反面教師にすべきパーツもある(犯罪化したり団体の存在そのものを許さないなど、効果が厳しすぎる傾向)わけです。
大事なのは、外国の先行例も活用しながら、今ある日本の課題を解決すること。
そして、このテーマにおける今の日本の課題とは、およそ次の3つではないでしょうか。
1.被害をふせぐ(献金ルール作成など:宗教法人法の改正)
2.被害者をすくう(霊感商法や献金の取消範囲拡大と時効延長:消費者契約法の改正)
3.被害者を再生産するねっこを断つ(旧統一教会に対し調査を開始し解散命令請求の是非を判断:宗教法人法の運用)
この3つの課題自体はおよそ社会の共通認識なのですから、その解決策についてもみんなで合意できるはずです。
消費者庁の霊感商法等検討会では、8月29日から10月5日にかけて、毎週1回、1回につき90分前後、計6回の議論を積み上げてきました。そして今、課題ごとの論点、解決のための選択肢、選択肢ごとのメリットやデメリットなどかなり明確になってきています。
幸い、検討会は原則ライブ配信しながらオープンにやってきましたし、しかも委員一同「枠を超えて」を合言葉に幅広く論点を拾っています。
なので、この論点整理はとても大事な公共財。でも、毎回視聴したり、アーカイブを見たり、議事録を読んだりする時間は普通なかなかとれませんよね。なので、できるだけ分かりやすく、テキストにまとめました。
冒頭に書いたとおり、「ふせぐ・すくう・ねっこを断つ」の3点に分けて整理したものです。
【ふせぐ】献金ルールを定める宗教法人法改正
まずは何といっても、宗教法人が献金を受ける際の一般的なルールが必要です。
この点、公益法人にはそのルールがあるのに宗教法人にはないんです。
公益法人法(正確には、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)17条をみると、「寄付の募集に関する禁止行為」とあって
- 寄付しないと言ってる人に寄付しろと要求し続けてはダメ
- 乱暴だったり迷惑をかけるような要求はダメ
- 寄付金の使い道を誤解させるようなことはダメ
- その他寄付する人の利益を不当に害することはダメ
という4つの禁止ルールが書いてあります。
でも宗教法人法には、明確なルールがありません。
公益法人も宗教法人も、集めたお金が世のため人のために使われるからこそ、特別な法人格で特別な税制優遇を受けている点では同じですよね。だからこそお金の集め方や使い方にはそれなりの社会的責任があるという点も同じではないでしょうか。そう考えると、宗教法人法にも、こうした献金ルールがあるべきだし、そもそもないのがおかしいとも思えます。
そして検討会の宮下修一先生からは具体策も提起されました。
公益法人法の上記4つの禁止ルールに加え、宗教法人への献金被害に特有の類型として
- 霊感など証明が難しい能力や根拠に基づいて不安をあおっちゃダメ
- 相手が合理的に判断できる状態にないことにつけ込むのもダメ
という2つのルールを加えた6つの禁止類型を法で規定する。そして、こうした禁止ルールに違反した献金は無効とすることで、本人からの返金請求のみならず家族からの返金請求の道も開くというものです。
(ここ難しいのですが、法的な考え方として、取消であれば取り消すまでは有効で基本取り消せるのは本人だけ、無効であればそもそも無効なので本人以外も主張できる、ということになっているのです)。
このように宗教法人への献金ルールの要件・効果を法で定めれば
❶社会的にアウトと考えられる献金の線引きをすることで事前に予防でき
❷消費者契約法で拾いきれない献金被害を救うことも可能になり
❸アウトを違法ときっちり評価できるから、問題ある団体に「法令違反(の疑い)」を認定し、調査や解散命令につなげやすくなる
という3つの効果が期待できます。
なお、この法規定については、新法対応も可能ですが、宗教法人法改正で対応するのがシンプルだと思います。
他方、収入からみた献金割合ベースで規制するという考えはどうなんでしょうか。
10月4日の旧統一教会の会見では、月収3割を超える献金は記録を残すという方針が打ち出されました。また、日本維新の会からは、年収ベースの上限規制の提案が出ています。
たしかに、検討会でもこの方向の選択肢は議論されてきました。
ただ記録で足りるか上限設定かという以前に、収入割合ベースのルール作成にはかなり問題があります。
信者の収入を把握したい宗教団体側に、むしろ把握してくださいとお墨付きを与えるようなもので、だからこそ旧統一教会側も自らこのラインで方針を打ち出してきたとも言えます。しかも、洗脳下にない、生活にゆとりのある人が、自己決定で自分の収入の何割献金しようと本来自由であるべきではないでしょうか。つまり、収入割合による献金規制は、過度な規制になりやすく、かつ問題ある宗教団体側を利する懸念もあるわけです。
問題ある宗教団体への規制は必要ですが、まともな宗教団体へのとばっちりは抑えるべきだし、何より本質的な個人の自由を勢いで軽視してはならないことは言うまでもありません。
だとすると、やはり、検討会でのメインの議論のように、金額よりも、宗教団体側の行為に着目した方がよいのではないかと思います。もちろん、この行為がどのように献金者の利益を害しているかを判断する過程で、収入や献金額や生活の様子などが後から考慮されることになるでしょう。
それぞれのアイディアのいいとこ取りで、よい解決策を素早く実現させることが大事です。
【すくう】違法献金等の取消範囲拡大と時効延長
いまある法律のなかで、霊感商法やそれに近い献金を取り消して返金させるためのものとして、消費者契約法があります。
2018年の改正で入った、この霊感商法などに関する取消権(法4条3項6号)。条件が厳しすぎて、なかなか使えません。実際、改正後この取消権が使われた裁判例は見当たらないということが検討会でも明らかになりました。
それもそのはず。その取消の条件はざっくり言って、「霊感などを元にこのままではものすごい不幸が降りかかるなどと不安をあおり、でもこの契約をすれば確実にその不幸を避けられると伝える」というもの。この要件をみた団体側が、「確実にという言葉を使うな」と即マニュアル化することが容易に予想できます。しかも、おそらくマインドコントロール化にある信者に対しては、「確実に」などという言葉を使わずに献金誘導できてしまうのが実態ではないでしょうか。
そこで、この消費者契約法の霊感商法等取消権については、もっと要件を広げた包括的な条文をつくることがよさそうです。それこそ、不安をあおったり、合理的判断ができなくなっている状態を利用するなど、献金ルールと対応するような包括的な条件を置き、こうした消費者契約は取り消せるとすることが考えられます。
ここで、「壺から献金へ」と言われるように、霊感商法と献金のラインをあやふやにすることで取消を免れようとする傾向が問題となります。
どういう献金なら「契約」として取り消せるのかという問題です。
この点は、かなり法的に難しい議論がされていますが、ひとつの考え方としては、多くの献金事例は「渡すかどうかは任意だけれど、渡してしまえば相手のもの」という性質の債務(自然債務と言います)を発生させる民法上の明文がない契約(無名契約と言います)と見ることが可能かもしれません。贈与契約とみると「実際お金を渡す前から、渡す義務が生じる」リスクがあり献金する側にむしろ過剰な負担が生じかねないので、ここは要注意です。
つまるところ、どういう献金は「契約」と捉えられるのか、どんな性質の契約と捉えるべきなのか、この線引きは、まだ検討会でもピシっと決められていないところなのです。
しかし、「契約」とは捉え切れない献金も救わなければならないという点ではビシっと決まっています。
だからこそ、消費者「契約」法改正で救うだけでは足りず、「契約」とみることができない献金を救うためにも宗教法人法の改正が必要と考えています。
もうひとつ「すくう」ための論点として、家族も取り消せるようにすべきかという論点があります。
たしかに検討会でも、消費者生活センターの田浦委員などから、多くの相談は家族からなのだと伺いました。大事な論点だと思います。
ひとつの解決策としては、本人がマインドコントロール下にあって合理的な判断ができないような場面において、その財産管理権を本人から家族に移すという方向があります。
もうひとつの観点としては、本人がマインドコントロールから脱することができるよう脆弱なカウンセリング体制を強化し、脱したら時効が完成していたということがないように取消権の時効期間を延ばす(今の消費者契約法では、マインドコントロールを脱してから1年または契約してから5年で時効により取り消せなくなってしまいます)という方向も考えられます。
ここは検討会でもまだ議論が続いているところなんです。
ただ、私の意見としては、自己決定権を安易に制限する、あるいは一時的にせよ財産管理を個人単位から家族単位に戻すような解決策には、相当躊躇があります。また、本人の財産管理権を停止して家族に移すことで、本人と家族の信頼関係が悪化し、そのことは本人の宗教団体への傾倒を一層深めることにならないか、という懸念もぬぐえません。やはり、本質的な個人の自由を基本に置き、本人の意思決定の自由を回復するためのカウンセリングを整備し、取消権の時効延長により本人自らの財産回復の機会をきっちり保障する方が本筋ではないか、というのが今時点での私の感覚です。
【ねっこを断つ】旧統一教会に対する調査を開始
今後の予防策・救済策を整理してきましたが、その大前提として、今ここにある旧統一教会の問題を乗り越えることは必要不可欠です。
この点、10月2日に自民党の萩生田光一政調会長が、宗教法人法に基づく教団への解散命令は「難しい」との見方を示したと報じられました。
しかし、旧統一教会に関しては、その伝道・教化・献金要求行為などに組織的な違法を認める裁判例が相当数積み重なっています。あわせて、脱会者や宗教2世による被害告白を含め、これまで明らかになっている数々の問題を直視すれば、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」「疑いがあると認めるとき」に該当する、つまり少なくとも調査権は発動できると考える方が自然ではないでしょうか(宗教法人法78条の2第1項第1号)。
できる調査もしないまま解散命令請求に及び腰という姿勢では、まだ旧統一教会とのしがらみがあるのかと疑われても仕方ありません。
そもそも、自民党自ら旧統一教会と関係を断つと決めたわけです。政権与党が、特定の民間団体を名指しして関係断絶を宣言したからには、この団体に放置できない重大問題があると認めたわけで、法の手立てがあるにも関わらずそれを放置するというのでは道理が通らないでしょう。
政治家サイドの問題だけでなく、所轄庁である文化庁宗務課の姿勢・体制にも問題はあります。これまでの答弁を紐解くと、質問権行使の前提は「法令違反」とあるにも関わらず「おそらくほとんどの場合、犯罪行為といったもの」と一方的に権限行使の範囲を狭めたり、「質問権を行使するのはほとんど解散命令が決まっているような場合」と独自の法律解釈を展開したりしています。実際、解散命令を出した2例を含めて、およそ所轄庁が質問権を行使したことは一度もないということも明らかになりました。
検討会に提出された資料によると、例えば令和4年度における文化庁宗務課の定員は8名、予算は約4,700万円とあり、紀藤弁護士の指摘どおり、到底18万の宗教法人を所轄できる体制になっていません。こうした体制の脆弱さと、政治への忖度とがあいまって、現行法で規定されている職責を果たすのに極めて消極的な姿勢が継続してきたのかと思います。
まずは、現行の宗教法人法が予定している職責を果たしてもらいたいところです。
岸田政権には、所轄庁を通じて旧統一教会に対し調査権を発動し、その結果をふまえて解散命令請求の是非を判断することが求められていると思います。
最後に
岸田政権が旧統一教会問題を卒業するためには、この宗教法人への調査権発動、そして消費者契約法や宗教法人法の改正による予防救済体制の法整備、最低限この2点が必要かと思います。
生きにくい世の中を生きていくために、宗教を大切に思う人もたくさんいます。
地域コミュニティを支えていたり、地域や国を超えたつながりを通して素晴らしい社会貢献をしている宗教団体もたくさんあります。
だからこそ、宗教法人を隠れ蓑にした金銭搾取団体は必要な規制にかけ、きちんとした宗教団体の社会的地位が不当に貶められたり、活動に支障が生じないようにすることが大事なのではないでしょうか。
今こそ、この積年の課題に向き合い、抜本的な解決に踏み込むときだと思います。