長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

企業も日本も多様性を取り入れなければ終わる 時限的クオータ制導入を〈長野智子✕菅野志桜里〉

〈第3回〉長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談

ジャーナリスト長野智子さんと、菅野志桜里編集長が「政治とジェンダー」をテーマに対談を行った。長野さんは「クオータ制実現に向けての勉強会」事務局長を務め、政治のジェンダーギャップ解消を目指している。元衆議院議員として国政に携わってきた菅野と、どのような意見交換と合意形成ができるのか?

〈第1回〉女性議員の理想と現実、それでも女性議員を増やしたい理由

〈第2回〉参院選が女性候補大幅増でも喜べない?女性立候補者を消費する自民党

〈第3回〉企業も日本も多様性を取り入れなければ終わる 時限的クオータ制導入を ←今ここ

〈第4回〉女性政治家にとって「永田町環境が悪すぎる問題」を突破する秘策 

〈第5回〉メディアの伝え方を変えていく 政治にドラマをつくる

女性だけが優遇されるのは不平等では?ほかにもマイノリティはいるのでは?「クオータ制実現に向けての勉強会」を推進する長野さんにとっても悩ましい問いかけに、ひとつ答えを出す第3回。

◆長野智子:ジャーナリスト、キャスター、国連UNHCR協会報道ディレクター

◆菅野志桜里:The Tokyo Post編集長、弁護士、国際人道プラットフォーム理事

女性が国会に増えたら国民にとってどんなメリットがあるかの議論を

長野智子(以下、長野) ずっと菅野さんがおっしゃっていたみたいに、LGBTQ+とか障害者じゃなくて何で女性なのとか、そういう話ではなくて、まず女性が国会に増えたら国民にとってどのようなメリットがあるのか、そういう議論がされていないじゃないですか。いつも男女の椅子取りゲームみたいな、議席の椅子取りゲームの話になっちゃうんだけど、そもそもなぜ国会にもっと多様な人材を集めたほうがいいのか、あるいは、女性の国会議員が増えたらどういうふうに国民にとっていいことなのかというのをもっと議論したい。そこの軸がないからいつまでたっても……

菅野志桜里(以下、菅野):   そうかもしれないですね。ポリコレみたいな感じで、「女性を増やさなきゃね」ということが一応大前提みたいになっているけれども、そこが腹落ちしていないから、いまいちヤル気が出ていないというのはあるような気がするんです。

長野  何で女性に下駄履かせるんだという話になるじゃないですか。

菅野  そうそう。

長野  前に、丸紅が2021年に発表した女性のリクルーティングの総合職を2024年までに4割から5割という話をしましたが、丸紅もそれまで9割男性だったんですよ。思い切った改革を、なぜやったんですかって私、丸紅の柿木真澄社長にインタビューしたんです。柿木社長がおっしゃるのは、「商社が今持っているビジネスが10年後には確実になくなる。だから新しいビジネスチャンスを開拓しなきゃいけないときに、9割同質性の組織で開拓できますか」という問い掛けだったわけ。そう考えるようになったのは、フェムテックがきっかけだったそうです。何年か前にあっという間に5兆円市場に成長した分野ですが、それもやっぱり女性の社員からの提案だったそうで。同質性だけでは発想の及ばない分野を開拓することによって、会社の企業の利益として絶対にプラスになるという確信のもとに増やしているという。

それって私は、国も同じだと思っていて、同質性の国会議員では見えないところに目配りしたり、政策を広げたりすることによって、国の可能性も広がっていくんじゃないか、と。例えば、これまで家にこもっていた人が労働力になれるかもしれないじゃないですか。人口減少の中でも、そんないろんな広がりが出てくると思うから。戦後から高度経済成長期の時代なら男性的なマッチョな政治が求められたのかもしれない。だけど、今人口減少で価値観も多様化してというこの時代に、一番大事なのはいろんな人が生きやすい社会になることだと私は強く思っていて。

時限的クオータ制をペナルティー付きで実施する

長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

菅野  本当にそう。だから女性の政治家は絶対増えたほうがよくて、そのやり方も、いわゆる候補者均等法みたいな男性と女性という属性で強制的に増やしていくという方法も各国で有効だし、ここまで変わらないならやらざるを得ないと思います。期間限定で、もうペナルティーまで付けて、効果を出して、やめたらいいと思っているんですよね。

長野  はい、いわゆる時限的クオータ制みたいな。

菅野  時限的なクオータ制として。だらだらやって効果も出ないわ、ずっとそういう批判にはさらされるわというよりは、これはメリットのほうがデメリットを上回るということで、時限的にちゃんとやって効果を出したらやめる。多分いったん増えたら、そんなに減らないと思う。

長野  あと一度でも増えることって、有権者の意識改革にもすごく大きいと思うんですよね。メディアの伝え方も変わると思う。効果が大きく出ないまま、少しずつ増えたか増えないかという感じだと、いつまでたっても女性が特別な存在であって「普通」にならないんですよ。だからある種法制化してでも、時限的でもやるというのは、私は大事だと思います。

今旧統一教会問題で話題になってしまっているけど、福田達夫総務会長が、私が参議院選の開票特番をラジオでやったときにこの話を質問したら、彼は時限的クオータ制に賛成でやるべきだと言っていたんですよね、ラジオで。

菅野  それはある程度強制力を持ったものという意味合い?

長野  「僕は絶対女性国会議員が増えたほうがいいと思うから、時限的クオータ制はありだと思う」という言い方。ああ、そういう男性議員、自民党にいるのだなと。ベテランの男性議員も、「次回の衆院選に向けて、自民党もそろそろやらないとやばい」みたいなことを私に言っていたんですね。だから多少なりは、少しは動きがあるんですかね、分からない。

菅野  そうですね。だから今のちょっと緩やかなやつでやってみたけど効果が出ませんでした。そうしたらちょっと強化しなきゃいけないよねという。段階を踏むということがどうしても必要なんだとしたら、もう段階を踏んだので時限的クオータ制を強く望むと。

「クオータ制実現に向けての勉強会」はジャーナリストとしての立志から

菅野「クオータ制実現に向けての勉強会」は、どういうきっかけで田原(総一朗)さんと一緒にやっているんですか。

長野  私がテレビ朝日の番組を卒業したときに田原さんが食事会をしてくださって。そのとき、これからどうするのという話になって。今までできなかったことをやってみたいという話をしたら、「もしジャーナリストになりたいんだったらば、自分にこれをやり遂げたいという軸がないとジャーナリストと名乗っちゃ駄目だよ」って田原さんに言われたんです。「田原さんの軸は何なんですか」と私が聞いたら、田原さんは「日本に二度と戦争をさせない。強い野党をつくる。言論の自由を守る。この三つの信念で僕はジャーナリストを今もやっている」とおっしゃって、なるほどと。「長野さん、何かやりたいことないの」と言われたときに、最初に頭に浮かんだことが、「ずっと自分が女性として働いてきて、取材もする中で、女性の国会議員が少な過ぎることにいつも疑問をもっていて。女性国会議員を増やしたいです」って言ったんです。「ああ、いいじゃない」って田原さんがおっしゃって。田原さんの番組に野田聖子さん、辻元清美さん、矢田わか子さんの3人がゲスト出演されたときに、「勉強会をやろう」とまとめてくださったんです。「長野さん、ちょっと3人に連絡取って。事務局長やって」と言われて、「分かりました」からスタート。私は絶対超党派にすべきだと思って、とりあえず7党からスタートしたというのが経緯です。

菅野  私も結局議員を卒業して、今幾つか大事にしている仕事の一つで、超党派の人権外交議連の事務局をやっているんですね。長野さんの例を見ていたので、なるほど、超党派議連の事務局って民間人がやるのってしっくりくるよねって思って、結構自信をつけて。この感じで私、このまま事務局やって大丈夫かなみたいに議員に相談してたら、どうぞどうぞみたいな感じで言ってもらって。だから民間人事務局でやれているの、長野さんのおかげでもあります。

長野  ありがとうございます。私が一番思ったのは、さっきから話している有権者の意識というのもなかなか変えるのが厚い壁だなと思ったときに、これはすぐには変わらないけれども、メディアしかないなと思ったわけですよ。自分がこういう立場にいるので、メディアを集めたり発信することはできる。だから、最初に勉強会をつくるときに国会議員の先生にお願いしたのは、「この勉強会をスタートするに当たっては、メディアにほとんどフルオープンにしたい」と。

菅野  そうだ、一緒、一緒。人権外交議連もなるべくフルオープンで、メディアの人、もうウェルカムで一緒に勉強しようみたいな。

長野  どんどん報道してくださいという、それもあったんです。

菅野  そのやり方ですよね。

長野  田原さんがいらっしゃってくださると、「何やってるの?」って来てくれる記者の人もいらっしゃったりとか。

菅野  確かに確かに、何に来ているのみたいな。

「クオータ制実現に向けての勉強会」から提言しよう

長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

長野  そうそう、そういう感じで今レギュラー参加してくださる記者の方もたくさん増えてきて、残念ながら女性がほとんどなんですけれども。もっと男性記者はもちろん、男性議員の参加者も増やしていければいいなと思っています。勉強会自体も女性ばかりでやっていても広がらないので。

菅野  女性議員限定なんですか。

長野  最初はそうだったんですけど、今はこだわりがなくてもっと増やしたいです。この勉強会の特徴は、議連のように党を背負っていないから、皆さん本音ベースで意見交換できることで。党に持ち帰ってお伺い立てるわけでもないので、例えば「うちはこういうことをやってるよ」と言うと、「その取り組みいいからちょっとうちもやろう」みたいな感じのざっくばらんな話をしていたんですね。メンバーも流動的で、選挙や組閣のたびに変わる。今回、矢田わか子さんが落選されて。

菅野:  痛いですよね。

長野  はい。辻元さんが戻ってきたりとか。

菅野  戻ってきたね。入れ替わりが激しい。(笑)

長野  はい(笑)。選挙後、8月4日に開催して9月後半にまたやります。参院選後は第2ステージということで、何かしら議員立法までは行かないんだけれども、辻元さんが「ここから提案を出していこう」とおっしゃったので、メンバーを固めてやっていきましょういう流れに今なっています。

菅野  じゃ、これから目標設定が具体化するんですね。

長野  具体化していく感じですね。

長野智子

上智大卒後、フジTV入社。その後夫の米国赴任に伴い、NY大大学院で学ぶ。2000年よりキャスターとして「ザ・スクープ」「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーション」「サンデーステーション」などを担当。現在は国内外の取材、国連UNHCR協会報道ディレクターなど幅広く活躍中。