国際人権問題担当総理大臣補佐官 中谷元議員に 訊く〈1〉 人権外交 最前線 ©The Tokyo Post
国際人権問題担当総理大臣補佐官 中谷元議員に 訊く〈1〉 人権外交 最前線 ©The Tokyo Post

2022年上半期の国際人権問題のトピックスとは? 国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員に訊く

〈第1回〉人権外交最前線/国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員に訊く

内閣で初創設のポスト「国際人権問題担当補佐官」に任命された中谷元議員。2021年11月の着任から約半年が経過した今、中谷補佐官に菅野志桜里編集長がインタビューした。「ウイグル弾圧」「ウクライナ侵略」「避難民受け入れ」など重要なアジェンダとなった人権外交について国家の方針を質す

中谷元(国際人権問題担当総理大臣補佐官)

菅野志桜里(The Tokyo Post編集長/国際人道プラットフォーム代表理事)

(左)国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員 (右)菅野志桜里The Tokyo Post編集長 ©The Tokyo Post
(左)国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員 (右)菅野志桜里The Tokyo Post編集長 ©The Tokyo Post

国際人権問題担当補佐官というポストが誕生した背景として、2021年は、アフガニスタンをタリバンが制圧、中国による新疆ウイグル自治区での弾圧、ミャンマーの軍事クーデターと深刻な人権侵害が立て続けに発生し又社会問題化したことがあげられる。そして、2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの武力侵略が開始。日本をはじめ世界各国が、多発する国際人権問題への対応を緊急に迫られることとなった。

内閣初の国際人権問題担当総理大臣補佐官に就任から半年を振り返る

菅野志桜里(以下、菅野):岸田政権のスタートとともに中谷議員が人権担当補佐官になって約7カ月。参議院選挙の前でもあり、国民への中間報告が求められるタイミングだと思います。

まずはこの間、人権担当補佐官の役割をどのように認識し、どのような活動を果たしてこられましたか。

中谷元議員(以下、中谷):総選挙の後、11月に岸田内閣の国際人権問題担当総理大臣補佐官に指名いただきました。これは総裁選挙で岸田首相が公約をしたことで、内閣における初の人権担当補佐官です。就任前に菅野志桜里さんと「人権外交を超党派で考える議員連盟」で数々活動してきたこともありまして人選されたと思っております。初めて内閣に人権担当補佐官ができたことで、非常にうれしく思っています。

着任してすぐ12月に私の下に二つの会議体をつくりました。

一つは、ビジネスと人権に関する局長級の会議です。全業種の企業が人権デュー・ディリジェンスの取組みを進められるよう、この夏目途でガイドラインのとりまとめを目指しています。

もう一つは外国人の技能実習生や難民の問題について、各省の課長クラスが省益を離れて国家的に議論しようと将来の施策を検討しています。こちらは中長期的な視点で総理に提言できればよいなと。

それに関連して、外国人の技能実習生の現場を視察しようと、これまで宮城県気仙沼市の水産加工関係、それから千葉県山武市にあります農業の実習現場、そして愛知県の豊田市の自動車シートの縫製工場、あわせて四谷のFRESC(フレスク)という外国人の在留支援センター、それらを現地視察いたしました。

また、国際人権問題担当補佐官として、できるだけ海外のカウンターパートと直接お話する機会をつくろうと、例えば3月上旬にはブリュッセルとジュネーブを訪問しました。

ブリュッセルのEU本部では、サプライチェーンにおける人権・環境問題に関してEU内企業に対し、デュー・ディリジェンスを義務化する指令案、これはちょうどEUが公表したところですが、その現状と課題を聞いてまいりまして、非常に勉強になりました。

それと、スイスのジュネーブ、こちらで開催された国連の人権理事会ハイレベルセグメントでは政府を代表して、ロシアによるウクライナの侵略を最も強い言葉で非難をするとともに国際人道法を含めた国際法上の義務の履行を強く求めるステートメントを発しました。(※ジュネーブ発言録)

中国にプロパガンダ利用された国連人権高等弁務官

中谷元議員 ©The Tokyo Post
中谷元議員 ©The Tokyo Post

菅野:ジュネーブでは、新疆ウイグル自治区を訪問する前のバチェレ国連人権高等弁務官にも直接お会いになったんですよね。

中谷:会いました。バチェレ国連人権高等弁務官、それからグランディー国連難民高等弁務官ですね。マウラー赤十字国際委員会総裁やチャパゲイン国際赤十字・赤新月社連盟事務総長とも会談しまして、ウクライナの情勢を含む国際人権問題などについて協議をしました。

菅野:このとき既に、新疆ウイグル自治区への視察の是非や条件について、強い懸念を伴う議論があったはずです。自由な視察状況が担保されるとは到底思えない状況で、中国に利用されてはならないという懸念ですね。中谷補佐官はバチェレ弁務官にこうした懸念を伝えましたか。

中谷:会談のときに中国訪問の話がありましたので、私からは信頼できる現地へのアクセスが重要である旨を直接申し上げました。世界が注目する中で、必要なアクセスができる透明性を持って行ってもらいたいと要望しました。

菅野このバチェレ弁務官の訪中結果については、率直にどんな評価をされていますか。

中谷:ご本人も記者会見をしたんですけれども、新疆ウイグル自治区への滞在が2日間だけだったと。コロナ対策を理由に外部との接触を避けるバブル方式で、隔離された施設での接触であったということです。彼女自身も今回は調査を目的としてなかったし、今回の訪問においては移動の自由とかアクセスとか、監視のない形での接触などについて十分認められたのか、そういった人権侵害の疑念を晴らすものであったかに対しては、国際社会から異論が多く出されています。しかし、これについては引き続き評価が行われると思いますので、引き続き動向を注視していきたいと考えています。

菅野:コロナを理由に透明性のない視察が行われ、実質的な調査結果を出せないまま中国側に利用されることは十分多くの人が予測していたわけですよね。会談した習主席からは、人権を政治問題にするなとお決まりのセリフが出てきたわけですが、バチェレ弁務官は効果的な反論すらできなかった。予想とおり、中国はこの「視察」を「前向きな成果」と現に宣伝に利用しています。中国にもの言えない国連の病を象徴するような一件だったと思いますが、いかがですか。

中谷:国連としては、世界各国が参加している機関でありますので公の立場で行動されていると思いますが、中国の人権問題は各国から注目されていることでありますので、しっかりと対応していただきたいと思います。我が国として、引き続き、中国が独立したオブザーバーが現地にアクセスできるようにすること、また、透明性のある説明を含めさらなる前向きで具体的な行動を取ることが必要と思います。

わが国としても、バチェレ氏に対してこのような期待にお応えいただくように、機会を見て申し上げたいとは思っております。

菅野:実際に3月の時点で、補佐官はバチェレさんに直接指摘をされたので、引き続き強くお伝え頂きたいと思います。

ウイグル民族弾圧のエビデンス資料の公表から考える

(左)国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員 (右)菅野志桜里The Tokyo Post編集長 ©The Tokyo Post
(左)国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員 (右)菅野志桜里The Tokyo Post編集長 ©The Tokyo Post

菅野:以前『プライムニュース』という番組に私と中谷補佐官が出たとき、中国の学者さんもお二人出られて、彼らが盛んに、「そんなに人権侵害があるなら、ウイグルに視察に来てくださいよ」と、すごく言っていらして……

中谷:言っていましたね。

菅野:それに対して中谷補佐官も私も、「自由な視察をちゃんと保障できるんですか、そういう前提をつくれるんですか」みたいなやりとりがありましたよね。

中谷:ありましたね。私たちが「それは強制労働の施設とか、洗脳するための教育機関じゃないですか」と言ったら、「ちゃんと洗脳していますよ」っていきなり答えたので、びっくり仰天しましたよね。思い出しました。

菅野:キャスターの反町さんが「え、本当にそれでいいんですか」って念押しをして。

中谷:「いいんですか」って念押しをしましたけどね、やっぱりそういう教育をしているんでしょうね。

菅野:最近、決定的な証拠もでましたよね。「新疆ウイグル公安ファイル」。エイドリアン・ゼンツ教授を中心に各国メディアが協力して、日本のメディアでは毎日新聞が調査分析して、「証拠がない」という弁解はもう成り立たないほどの膨大明確な証拠資料が公表されました。中谷補佐官もご覧になりましたか。

【関連記事】新疆ウイグル地区の弾圧資料流出 中国は「嘘とうわさ」と否定、英独が調査要請

中谷:新疆ウイグル自治区で重大な人権侵害が行われているとの報告が数多く出されて、日本としてもこういった問題には懸念をしているわけでありますので、これについていかなるものであるのかに非常に関心を寄せております。

菅野:アメリカ国務省は、6月2日付で世界の信教の自由に関する年次報告書を出しました。その中で、中国政府によるウイグル民族の弾圧を厳しく非難すると明示したわけですよね。日本政府は自ら調査に乗り出すとか、その調査を踏まえて報告書を出すとか、今後予定されていないんでしょうか。

中谷:これについては官房長官が記者会見で、日本としても新疆ウイグル自治区の人権状況については深刻に懸念しているんだと述べておりますし、去年の10月の段階で岸田総理が習近平との電話会談で直接提起もしていますし、外務大臣が5月の王毅外交部長との会談においても深刻な懸念の表明をしているので、引き続き国際社会が懸念に対して中国に強く働きかけていくことが重要だと考えています。

菅野:外務大臣レベル、総理大臣レベルで重大な懸念を伝えているのはそのとおりだと思うんですけど、それでは足りないんじゃないかということなんです。よく調査が難しいという話が出てきますよね。ただ今回は、研究者や各国メディアの何年もの調査分析の集大成ともいえる新疆公安ファイルという報告書が既にあるわけです。研究者のもとに集まった情報を各国メディアが共有して、それぞれにちゃんと裏付けを取って、自らが持っている流出文書とか、動画とか、当事者の告白とか、全部照らし合わせて、これはもう本物であると。

こん棒を持った職員の監視の下で、手錠をされて、足かせを付けられ、覆面を付けられて、注射もされた。今までの被害告発も今回写真で裏付けられています。収容された人の家族だからとか、イスラム教の経典を学んでいたからとか、テロリストとは全く関係ない事実で捕まえられていることも明らかになったし、逃げる者は射殺しろという指示も存在しました。ウイグル族を理由に狙い撃ちをして、抹消していく組織的で大規模な人権弾圧が現に起きていると、これがこのファイルにより認められた事実だと言わざるを得ない。

つまりオープンソース、既に公表されているものをみんなで共有して、みんなで分析して、もうこれは事実だとみんなで確定できるレベルまで世界中が協力して進めてきているので、日本も仮に独自の調査が難しくても、出てきた事実を基に日本政府としての評価・判断が出せるレベルに来ている事案に見えますが、それは難しいんでしょうか。

中谷: 私も防衛省で大臣もやっていましたけど、やはり日本の国にとって必要な国防とか安全保障とか、そういう情報はしっかりと国としては取り組んでおりますので、安全保障上、言えることと言えないこともあるんですけども、今回の人権の問題については、様々な国がいろいろと調査をしたり、またいろんな情報を出してきており、この新疆ウイグル自治区に関しては重大な人権侵害が行われているという報告が数多く出されております。今回もBBCや米国でもかなり信ぴょう性のあるような報道をしておりますが、わが国としても、こういった新疆ウイグル自治区の人権状況には深刻に懸念をしておりますので、いろんなまた情報も重ねながら、引き続きしっかり懸念を伝えていきたいと思います。

菅野ぜひそのようにお願いします。

まさに「人権外交元年」となった2022年を中谷元補佐官が振り返った。米中の対立の真ん中にある「ウイグル族弾圧疑惑」が、いよいよエビデンスを積み重ねつつある。次回は、人権侵害を防止する法制度について議論を進める。


人権外交最前線/国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員に訊く

〈第1回〉2022年上半期の国際人権問題のトピックスとは? ←今ここ

〈第2回〉「人権デュー・ディリジェンス」法制化と「ジェノサイド条約」批准は果たされるか?

〈第3回〉ウクライナ、アフガニスタン、ミャンマー難民受け入れの門戸広げる日本 


プロフィール

中谷元(なかたに・げん)

国際人権問題担当総理大臣補佐官。昭和32年10月14日(1957年)高知市に生まれる。土佐中・土佐高を経て、防衛大学校に進学。昭和55年、陸上自衛隊に入隊。レンジャー教官等歴任。昭和59年12月、二等陸尉で退官し、政治家を志す。平成2年2月、第39回総選挙において初当選。以来、連続当選を果たし、10期目