自民党の改憲案に、旧統一教会の関連団体とされる「国際勝共連合」が公表した改憲案と一致した部分があると2022年8月2日付の東京新聞が報じ、Twitterで話題となった。東京新聞は「緊急事態条項」や「家族条項」などで主張が一致していると指摘。Twitterでは「自民党とカルト宗教の関係が不気味」などの投稿が数多く上がっているが、「強引に統一教会と改憲を結び付けている」との指摘もある。
「緊急事態条項」や「家族保護」を掲げる
2022年8月2日付の東京新聞は、国際勝共連合がホームページなどで紹介した団体独自の憲法改正案を取りあげ、自民党の改憲案との一致点が多いと指摘した。同連合は、共産主義に対抗するために1968年に創設された政治団体で、旧統一教会と創設者が同一人物であることから、教団の政治部門とも呼ばれる。
同紙によると、同連合は改憲の優先事項として「緊急事態条項の新設」「家族保護の文言追加」「自衛隊の明記」を挙げており、自民党の改憲案と一致している点が見られると指摘している。
こうしたことを踏まえ、評論家の古谷経衡氏の「(改憲について)国民は一度、立ち止まって考える必要があるのではないか」との意見を紹介。最後に、安倍晋三元首相が2006年に出版した著書と、その2年前に出版された勝共連合初代会長、久保木修己氏の遺稿集のタイトルが似ていると指摘し、「偶然か、思想の一致か。こんな縁が感じられる改憲は不気味だ」とする「デスクメモ」で記事を締めくくっている。
専門家は「教団が自民党案を利用」と指摘
こうした記事にTwitterで多くの人が反応し、一時は「家族条項」のワードがトレンド入りした。多くは、自民党の改憲案は旧統一教会の教義に影響を受けたのではないか、との疑念で、立憲民主党の衆院議員、小沢一郎氏の事務所は「憲法改正論議の裏には、実は統一教会の存在があったという疑惑。選挙では統一教会におんぶにだっこで、教団礼賛を絶叫までする自民党議員達に、もはや憲法改正を議論する資格などない」と批判した。
しかし、東京新聞の記事をよく読むと、専門家の中で教団の主張と自民党改憲案が一致していると指摘している人は誰もいない。同連合が緊急事態条項を掲げたことについて聞かれた愛媛大の井口秀作教授(憲法学)は「反共を掲げる団体の素直な主張なのだろうが、自民草案との間に因果関係があるのかは分からない」と答えた。
憲法上の「家族」の位置づけについても、北海道大の桜井義秀教授(宗教社会学)は「教義を真正面から説くだけでは、多くの人々は受け入れず信者も増えない。だから教団側に都合の良い自民の改憲草案に乗っかり、利用しようとしている」と指摘するにとどまった。
結局、「一致」と指摘しているのは東京新聞だけで、それに同調する専門家は記事に登場しない。こうした紙面づくりについて、Twitterでは、元陸自総監で作家の山下裕貴氏は「記事を読んで、嫌な気持ちになるのは私だけでしょうか。強引に統一教会と憲法改正に繋げて、煽(あお)るような意図が…」とツイートするなど、「東京新聞は、憲法改正を阻止するために、統一教会と自民党を強引に結び付けようとしている」との意見も見られた。
●安倍元首相襲撃事件は、旧統一教会が政治に働きかけていることを炙りだした。宗教=悪ではないが、個人の財産を搾取し、人生を破壊するなど反社的集団と化しているカルトに権力の後ろ盾を与えてはならない。
一方で、ある事実に「意味」を与えようとするメディアの所作や、なにかを断言するSNSなどは、「誘導」する意志を持っていることを忘れない方がいい。フェイクニュースや陰謀論は日常に入り込んでいる。(The Tokyo Post Editor)