ロシア議会上下両院は2022年5月25日、軍の志願兵の年齢上限を撤廃する法案を可決した。ウクライナ侵攻を継続するため、兵力を増強するのが狙い。ロシア軍はウクライナ東部に集中し掌握を進めていると伝えられている。5月30日現在、両軍にとって「天王山」といわれるウクライナ東部ルハンシク州セベロドネツク周辺に猛攻が加えられているという。
ロシア志願兵の年齢制限撤廃や国内不満抑えて戦闘継続
ロシアの現行法では、志願兵の入隊時の年齢についてロシア人は18~40歳、外国人の場合は18~30歳と定められている。
AFP日本語オンライン版(26日付)によると法案の関係資料では、年齢制限撤廃について「高精度兵器の使用、兵器や軍装備品の運用には高レベルの専門家が必要だ」としたうえで、「そうした域に達するのは40~45歳だ」と説明。「医療従事者やエンジニア、通信技術者ら専門人材の入隊の促進にもつながる」ともしている。
下院ホームページによると、ウォロジン下院議長は「国防省を支援し、軍を強化する必要がある。最高司令官のプーチン大統領は、手を尽くして兵力を増強し、軍を勝利させようとしている」と述べたという。法案は議会で可決された後、プーチン大統領の署名を経て立法化される。
また、時事通信によるとプーチン大統領は25日、テレビ放映された当局者らとの会議で「6月1日から年金を10%増額する」と述べた。さらに、最低賃金も6月から10%引き上げ、幼い子供がいる女性軍人への手当も増額するという。
ロシアのインフレ率は4月、前年同月比で17.8%に達し、過去20年で最も高い水準となったが、プーチン大統領は1月にも年金引き上げを約束したことを踏まえ、引き上げ率は「インフレ率よりも高くなる」と主張した。
「天王山」に向け兵力を増強
ロシアでの軍入隊の年齢引き上げや、年金・最低賃金の引き上げは、ウクライナとの戦闘での苦戦を反映したものと西側諸国から見られてきたが、現在ウクライナが有利な状況とはいえない。
ロイター日本語オンライン版は5月17日の時点で、ロシア軍について「現有の兵力のまま負けるか、新たな動員があるかのどちらかになる。その中間の事態はないと思う」とするポーランドに拠点を置く防衛研究グループ「ロチャン・コンサルティング」の見方を伝えていた。
ロンドンのシンクタンク、RUSIのニール・メルビン氏はロイターの取材に対し、「時間の経過とともにロシア軍が不利になるのは間違いない。彼らは装備、とりわけ新型ミサイルが枯渇している」と指摘した。
こうした情勢のなか、ロシア軍はウクライナ東部ルガンスク州のセベロドネツク周辺への攻勢を強め、各メディアの報道によると、ロシア軍とウクライナ軍の間で激しい戦闘が行われているという。
ウクライナ東部ルガンスク州をロシア軍が掌握
産経新聞オンライン版(26日付)によると、米国のシンクタンクの戦争研究所は、露軍がこれまで進めてきたウクライナ東部を広範囲にわたり包囲する戦略から、小規模な地域を包囲して制圧する作戦に転換したとの見解を示した。
ロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠氏は25日のテレビ朝日の報道番組でセベロドネツク周辺の戦闘について「ウクライナ・ロシア両軍の主力部隊が集まって戦っている」と指摘し、双方にとっての「天王山」だとした。
5月50日の現在NHK報道によると、ウクライナ東部のルハンシク州のほとんどがロシア軍により掌握され、最後の砦となったセベロドネツクが猛攻を受けているという。徹底抗戦の構えを崩さないゼレンスキー大統領は欧米にさらなる武器供与を求めており、それに対し、プーチン大統領はマクロン仏大統領とショルツ独首相との電話会談で「事態のさらなる混乱と人道危機の悪化を招く恐れがある」として強くけん制したという。