画像:shutterstock サプライチェーン
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経済安全保障推進法が成立、重要物資のサプライチェーン強化へ 経済界から懸念

国民生活に必要な物資を安定的に供給することを目的とした経済安全保障推進法が2022年5月11日の参議院本会議で自民・公明の与党や立憲民主党などの賛成多数で可決、成立した。経済界からは経済活動を制約しないよう適切な運用を求める声もある。

安定供給のため、国に調査権限

経済安全保障推進法では、半導体や医薬品など国民生活に欠かせない重要な製品「特定重要物資」の供給網を強化し、サイバー攻撃を防ぐため基幹インフラの防護に取り組むことを定めている。

法律は大きく「供給網の構築」「基幹インフラの安全確保」「先端技術の官民研究」「特許の非公開」の4本柱で構成。「供給網の構築」では、国が半導体や蓄電池、医薬品のほか、レアアースなどの重要鉱物などを「特定重要物資」に指定。供給が滞ることがないよう、企業の原材料の調達先や在庫を国が調査できるようにした。

「基幹インフラの安全確保」では、安全保障上の脅威となる外国製品が入らないよう、インフラを担う電気や金融、鉄道など14業種に対し、国が管理システムの概要や仕入れ先、部品などを事前に審査できるよう規定。「先端技術の官民研究」では、人工知能(AI)や量子などの先端技術について、官民で研究・開発する仕組みを設けた。「特許の非公開」では、ウラン濃縮技術など軍事転用の恐れがある技術の特許について、防衛省などの担当者が審査のうえ非公開にすることを定めた。

法律は今後2年間かけて段階的に施行する。

経済界からは適用範囲を拡大しないよう求める声

経済安全保障は、岸田文雄首相が就任当初から掲げる看板政策の一つで、背景には米中の対立激化があった。さらにロシアによるウクライナ侵略で、戦略的な物資の確保や先端技術の流出阻止はますます重要な課題となっている。

松野博一官房長官は11日午前の記者会見で、採決に先立ち「サプライチェーンの強靭化に資する重要物資の安定供給確保など必要な経済施策を整備するもので、わが国の経済安全保障の確保に向けた重要な一歩だ。引き続き、経済安全保障担当大臣が中心となり、関係省庁と緊密に連携しながら経済安全保障の確保のための施策を推進していく」と述べた。

一方で、経済界からは経済活動に対する国の関与が強まることに当初から懸念の声があり、衆参両院の内閣委員会では「特定重要物資」を指定する場合には、関係事業者・団体の意見を考慮するなどとした付帯決議も採択されている。

日本経済団体連合会の十倉雅和会長は「経済活動の自由を維持しながらサプライチェーンの強靭化や基幹インフラの安全性、信頼性の確保、産官学による先端的な重要技術の開発などが進展するよう期待する」としたうえで「今後の施策が経済活動の実態に即し、実効性のあるものとなるよう、必要な情報の共有を政府に求めていく」などとするコメントを発表した。

また、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事もコメントを発表し、「事業者の自主性の尊重や事業者間の適正な競争などが付帯決議に盛り込まれたことを評価する。政令による特定重要物資の対象分野の指定については、法律の目的を損なわない範囲で規制、支援の対象を明確にし、裁量によって適用範囲が拡大する余地を排除すべきだ」などと、運用の中で適用範囲が拡大しないよう釘を刺した。

経済安全保障を理由とした国家による経済活動への介入は、2018年の「大川原化工機事件」のような不当逮捕事件も起こしかねない。不安定化した世界情勢の中、経済安全保障推進は日本国家を自衛のためにも必要だが、今後も適切な運用方法の模索が続く。