画像:2022年3月26日会見する岸防衛大臣(C)防衛省
2022年3月26日会見する岸防衛大臣(C)防衛省

北朝鮮の新型ICBMで米全土が射程圏に 集団的自衛権行使の議論まったなし

北朝鮮が2022年3月24日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を日本海に向けて発射し、北海道の西側約150キロ、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。防衛省によると、米国の東海岸を含む全土が射程圏内に含まれる。

東海岸を含む米全土が射程圏内に入る可能性

岸信夫防衛大臣は25日の閣議後の記者会見で「国際社会がロシアによるウクライナ侵攻に対応している中、国際社会に対する挑発を一方的にエスカレートさせるような発射を強行しており、断じて容認できない。安保理決議に違反し、国際社会に背を向ける行為だ」と北朝鮮を厳しく非難した。

岸防衛相によると、発射が行われたのは14日14時33分頃。平壌近郊から発射された1発の弾道ミサイルは約71分間飛翔し、15時44分頃、北海道の渡島半島の西約150キロの日本海EEZ内に落下したとみられる。最高高度は6000キロを超え、飛翔距離は約1100キロだった。

今回の発射は、高い角度で高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で行われており、最も効率的に飛行する低い角度で打ち上げた場合、東海岸を含む米全土が射程圏内に入る。

防衛省では、同年2月27日と3月5日に発射されたミサイルと同じもので、2020年10月の軍事パレードで初めて確認された、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイルだとしている。

一方、北朝鮮の朝鮮中央通信は25日、前日に発射したミサイルについて新型ICBM「火星17」と報じた。最新型「火星17」ではないとの韓国の報道もあり、詳細は不明だ。

ロイター通信によると、朝鮮中央通信は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が発射実験を直接指揮したとし、金総書記は「北朝鮮の新戦略兵器の出現は、世界中にわれわれの戦略軍の力を改めてはっきりと認識させるだろう」と述べたという。報道で「米国の帝国主義」に対する核抑止力を強めると伝えた。

日本上空を超えるミサイルの撃墜シナリオが現実に?

北朝鮮のICBM発射を受け、3月25日、林芳正外務相は午前9時15分から約20分間、鄭義溶(チョン・ウィヨン)韓国外交部長官と電話会談し、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化に向け、日米韓で緊密に連携して毅然と対応することを確認した。

また、G7外相は25日、「国連安全保障理事会による複数の制裁決議のあからさまな違反行為」と指摘し、「無謀な行動は地域や世界の平和と安全を脅かし、民間航空機や船舶の航行に危険で予測不能なリスクをもたらしている。国連安保理による、さらなる措置も含め国際社会の一致した対応を求める」などと北朝鮮を非難する声明を発表した。

北朝鮮が新型ICBMを発射したと発表したことについては、米国でも危機感を持って受け止められている。

NHKウエブ版(3月25日付)によると、米国の主要メディアは「バイデン政権にとって新たな外交上の挑戦だ」などと伝えている。有力紙のワシントン・ポストは、北朝鮮が発射したミサイルが首都ワシントンにまで届くこれまでで最も強力なICBMだと指摘し「北朝鮮が怪物ミサイルを発射した」と伝えたという。

日本でも、自衛隊がミサイル迎撃する事態が現実味を帯びてきたという指摘があがっている。

26日付時事通信ウエブ版によると、安全保障関連法に基づく集団的自衛権を行使して米本土に向かうミサイルを日本が迎撃することも法的には可能だ。

米軍衛星がミサイル発射を探知すると、防衛省に発射方向、弾数、落下予想地域・時刻などの早期警戒情報が伝えられる。日本の領海・領土に落下する場合は、イージス艦が洋上で迎撃し、撃ち漏らした場合には地上配備の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が対応するという。これらは、自衛権の行使か、防衛大臣による破壊措置命令によるものとなる。

一方、ミサイルが日本上空を越えて米国に向かう場合については、安保法審議の中で政府が「(ミサイル撃墜が)可能になる場合もあり得る」と答弁している。

時事通信は、日米が共同開発した新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の迎撃高度は従来型の2倍の1000キロ以上で、米国は新型SM3でICBM迎撃実験に成功しているという関係者の話を伝え、「米から迎撃を要請されれば、断れないだろう」と政府筋の話を伝えている。

日本も集団的自衛権の行使について、具体的な議論が迫られそうだ。


写真出典:防衛省ホームページ https://www.youtube.com/watch?v=96xjZsqCSCs