シングルマザー家庭(イメージ) 画像:shutterstock
シングルマザー家庭(イメージ) 画像:shutterstock

シングルマザー就労支援は「自己肯定感を上げること」から 『わたしみらいプロジェクト』報告

7月26日、認定NPO法人キッズドアが、シングルマザーの就労支援プログラム“無料かつオンラインによる寄り添い方の新たな就労支援『わたしみらいプロジェクト』”の成果と課題についてオンライン報告会を開催した。

子どもの貧困の根本解決はシングルマザー家庭の収入アップ

認定NPO法人キッズドアは、子どもの貧困を支援するため、学習支援、居場所づくり、「こども宅食」などの支援や政策提言を行っている。学習支援を必要とする家庭はシングルマザーの割合が高く、コロナ禍で仕事に行けず収入が途絶えるなど、生活がままならない家庭が増えた。子どものいる困窮家庭に食糧支援をしているキッズドアは、コロナ禍が長期化することで危機感を持ち、シングルマザー家庭の収入を高めるためにシングルマザーの就労支援プログラムに取り組むことにしたという。

キッズドアは、女性の就労支援をしている株式会社Will Lab(ウィルラボ)代表取締役・小安美和氏に協力を仰ぎ、『わたしみらいプロジェクト』を2020年1月に発足した。就労支援のプロが寄り添い、就労・ステップアップまで伴走するプロジェクトとし、小安氏のほか、NPO法人ママワーク研究所理事長田中彩氏、株式会社スリーアウル代表取締役蒲生智会氏がプログラム開発とファシリテーターを務めた。また、応援企業として、パソナ、SONPOケア、株式会社Casyなどが参画している。

プログラムは「子どもを持ち働く非正規雇用者」を主な対象とし、無料かつオンラインによる寄り添い型の新たな就労支援の試み。

キッズドアのファミリーサポート制度を利用している家庭向け約3,000名に告知し、第一期(2021年1月~6月)は52名から始まり、第6期までに延べ311名が参加した。伴走してプログラムを実施することを重視し、目標設定は「就労」ではなく「収入のアップ」とした。就労数をKPIにしなかった理由は、それによってプレッシャーを感じないようにという配慮だという。うち、就労したのは、1期4名、2期は2名、3-4期では14名、5-6期では5名、計25名が就労した。

一歩を踏み出せないのは「自己肯定感の低さ」

キッズドア就労支援担当栗野氏は「経済的困窮に加え、時間的拘束や自己肯定感の低さなどの理由で就職活動が難しい世帯が一定数いることがわかった」と報告した。就労支援のニーズは高いにもかかわらず、ハローワークにもいったことがないという人が最も多い。行政などが実施する既存の就労支援の取り組みを利用しない理由には、交通費が出せない、家を開けられない、ハローワークで斡旋する職業訓練のテキスト代が出せないなどの理由が挙げられ、それに対応するためにオンライン開催とし、初年度はWi-Fiやパソコンも送ったという。また特徴的なこととして「自己肯定感の低さ」が理由だと分析した。

小安氏は「マインドセットが大事だった。「(自分には)強みがない」というお母さんが多い中、必ずあるということを言い聞かせ、履歴書を書く訓練をした。その先は、印象を高めるオンライン映えするメイク講座(POLA協賛)を入れ、ひとりひとり、どんなふうに生きたいか描けるようになってから企業面談に臨む必要がある。企業には何を聞いてもいいという姿勢で臨んでもらった。何でも答えてくださる企業のみなさんの協力で、「自分たちを必要としている企業がいる」という自己肯定感が上がっていく。6回のセミナー、個別相談を通じて1歩踏み出していくプログラムとした」マインド醸成にはには時間も多くかかり、ニーズも高いという。

自己肯定感が低い理由として、渡辺氏は「貧困、そして子どもに十分なことがしてあげられないことが自己肯定感を低くしている。支援を受けている人も、ほとんどの人が仕事をしていて一生懸命働いているが、十分なお金がない、子どもを塾に行かせてあげられない、大学に進学させられない、部活をやらせてあげられない、肉や魚をおかずにつけられない。これでは自己肯定感が上げようがない」とリアルなシーンを挙げ、「女性の非正規率の高さ、養育費の不払い多さ、教育費の自己負担率が高いなどの社会的問題が自己肯定感を低めている。あなたのせいではないということを言い続けている」とした。

プログラムの今後の課題は出口戦略の開発

マインドセットの必要性が高いが、どうしても長期化することが課題だ。2か月半の1タームではステップアップできず、期をまたがった人が多かったという。そこから就職活動へ向かうため、収入増や正規就労などの成果を出すまでの道のりが遠い。

また、求職者と企業求人のミスマッチ解消が課題だという。参加者はワンオペ子育てが96%だが、子育てしながら所得向上をめざしたい女性への求人は少ないのが実情だ。小安氏は「稼げて柔軟に働けるジョブを企業とともに開発していく必要性を大きく感じている。しっかりと継続的に支援する、出口戦略まで開発するというプロジェクトも少ない」とした。

渡辺氏は「キッズドアが主役となるというよりは、社会全体・国の仕組みにしてもらうことが大事だと考えている。女性の稼ぐ力をつけていく。国も企業も投資してほしい。取り組みを知ってもらい広めてもらいたい。」と結んだ。

今年度も『わたしみらいプロジェクト』への参加者募集を行う。学びやすさを追求し、リアルタイムセミナーだけでなく動画視聴型も導入する予定。

■申込フォーム  https://forms.office.com/r/yuj5A6fj4f