2018年アリゾナ州の銃規制を求める学生デモ 画像:shutterstock
2018年アリゾナ州の銃規制を求める学生デモ 画像:shutterstock

学校銃乱射事件は全米で12日に1回発生 防止に苦慮する学校

テキサスの小学校で5月24日に銃乱射事件が起き、児童19人を含む21人が命を落とし(2日後、犠牲となった教師の夫も悲しみのあまり心臓発作で死亡)、しかも犯人が18歳だったことで、銃と学校現場をめぐるアメリカの議論は苦悩の度を深めている。そんな中、AI(人工知能)を使った新たな技術が広がり始めている。

限定的な銃規制法改正で効力は期待薄…

アメリカCDC(疾病管理予防センター)によると、銃による死は今や若者の死因のトップとなり、昨年1年間に全米で34,000人の児童・生徒が銃を使った暴力に晒された。

米連邦議会は6月25日、銃規制には伝統的に消極的な共和党議員の一部の賛成も得て、21歳未満の銃購入時の身元調査拡大を盛り込んだ法律を成立させたが、バイデン大統領らが望んだ規模の規制にはほど遠く、すでに米国内には3億9300万丁の銃が出回っているとみられていることから、新たな法規制がどの程度効力を発するかは不透明だ。そうした中、学校当局は自ら身を守る道を探るしかない。

学校の入口にAIを使った武器検知装置

3月、ウエスト・バージニア州のある高校生が、銃で学校を襲撃するとインスタグラムに書き込むと、わずか数時間後、IPアドレスから生徒を割り出した警察が自宅で生徒の身柄を確保。翌日、通常通り学校を再開すべきか迷った学校経営陣が、通常授業を決断した背景には、この生徒が通うオークヒル・ハイスクールがAIを使った最新の武器検知装置を学校の入り口に設置していたからだという。

yahoo financeによるとEvolv(イボルブ)という名のこの装置は、金属探知機とは違い、ドアくらいの大きさのセンサーの脇を立ち止まることなく普通の速さで通り抜けることができ、1時間あたり4000人を処理できる。武器の特徴をあらかじめ学んだ上で検知するため、あらゆる金属に反応する検知器と違って携帯電話やパソコンをポケットやかばんから出す必要もない。5月にはノースカロライナ州の学校で生徒が持ち込もうとした弾を充填した銃を検知して事件を未然に防いだという。2021年に株式を公開したEvolv社の出資者の中にはビル・ゲイツも含まれる。

生徒自身が対策に乗り出す例も

教室のどんなドアにでもつけられて銃でも破られにくい新しい鍵を開発して「明日のために問題解決しよう」という高校生のアイディアコンテストで入賞したのは、ミズーリ州のオーエンスビル・ハイスクールの生徒たち。ともに入賞した中には、リモートで操作できる電磁式のドアロックと窓カーテンを開発したサウスカロライナのリッチモンド2イノベーション工科高校の生徒もいた。コンテストの年に17人が犠牲となったフロリダ州の高校での銃乱射事件が起きたことが発想のもととなっていた。

アメリカの高校生にとって、学校現場での銃乱射事件は切実な「明日の問題」だ。CNNの調べによると、アメリカ国内の学校で銃を使った事件は、実に「12日に一度」起きているという。

とはいえ、どんなにお金をかけて機器を導入しても、それで銃乱射事件が防げるわけではない。現に、5月の事件が起きたテキサス州ユバルデ市でも予算をかけた対策は講じられていた。

学校での銃乱射で世界に衝撃を与えたのは1999年のコロンバイン高校での銃乱射。以来、学校に警官を常駐させたり、避難訓練を繰り返すなど、全米各地で対策はとられてきた。2018年のアーバン研究所の調査によると、全米の小学生の19%、中学生の45%、高校生の67%が警官が常駐する学校に通っている。

全国警察研究所のデータベースによると、警官が常駐することで回避できた学校での暴力(銃が絡むとは限らない)は、2018年から2020年の間に120件あったという。

ユバルデでは警備強化だけでなく、自動生徒の心理面での支援対策も導入されていた。児童生徒生徒のSNS書き込みをモニターするSocial Sentinel「社会の番兵」、あるいは匿名でいじめを報告できるアプリ「STOPit(やめて)」も活用していた。だが事件は起きた。

結局、最大の防止策は人間関係の改善

つまるところ、大切なのは人間関係だと論じるのは、ワシントンポストの記事。

教室のドアをロックしたり、学校への入り口を一つに限定してそこをロックすることは無駄ではないが、怪しくない人間がドアをノックして「開けてください」と言えば生徒は開けてくれるし、教師が鍵をかけるのを忘れることもあると語るのは、学校の安全を考える団体「School Safety Advocay Council」役員のカーティス・ラバレロ。

専門家は、機器を導入すればするほど、それで学校が安全になったような幻想に陥ってしまうと逆の危険を指摘する。

結局大切なのは人間関係。ひとクラスの児童生徒数を減らして、教師と生徒の信頼関係を深くし、教師だけでなくカフェテリアで働く大人やカウンセラーも関わり、児童生徒の精神衛生状態を把握し、コロナ禍で溜め込んだストレスに寄り添って解消を助け、暴力的行為に走ろうとする子供が育たない環境を作ることでしか学校での暴力は防げないと説く。