2022年2月4日に開幕する予定の北京冬季五輪を前に、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害と残虐行為を告発する米国人ジャーナリストによるノンフィクション『AI監獄ウイグル』が1月14日、新潮社から発売された。
AIが作り上げたディストピア
新疆ウイグル自治区での人権侵害の一端は被害者の証言によって知られつつあるが、全容はまだ知られていない。本書では、難民や政府関係者、学者、活動家などへのインタビューをもとに、まさにディストピアと化した新疆ウイグル地区の実情を伝えている。
北京冬季五輪をめぐっては、21年12月に米国政府が「外交的ボイコット」を表明し、英、豪、カナダなども追随した。日本も「外交的ボイコット」とは明言しなかったものの、政府関係者を派遣しないことを決めた。日本は政府関係者を派遣しない理由を明確にしなかったが、米政府はボイコットの理由に、新疆ウイグル自治区での中国政府による人権侵害と残虐行為を挙げている。
新疆ウイグル地区の強制収容所などで行われている拷問や強制不妊手術、宗教的迫害などは亡命した被害者などの証言で明らかにされているが、中国政府の人権弾圧の恐ろしさは、収容所の外、日常生活の中にも潜んでいる。それは、米国で生まれ、中国で発展した最先端技術AIによる監視だ。
顔認証や音声認証など最先端技術が生活の中に入り込み、知らない間にテクノロジー企業によって情報が収集される。そして、その情報をもとに、政府にとって好ましくない人物が選び出され、ある日突然、収容所などに送られる。新疆ウイグル自治区は「米中の最先端技術企業が作りあげた最悪の実験場」と言っても過言ではない。こうした現状を、著者は一人の少女の脱出行を主軸に克明に描いた。
168人の難民や活動家、政府関係者に取材
著者のジェフリー・ケイン氏はアメリカ人の調査報道ジャーナリスト。アジアと中東地域の情勢を主に取材し、ウォール・ストリート・ジャーナル、タイム、エコノミストなど多くの雑誌・新聞に寄稿している。現在はトルコ・イスタンブール在住。
今回の取材では、168人のウイグル人難民や技術労働者、研究者、活動家、政府関係者、亡命準備中の元中国人スパイなどにインタビュー取材。さらに、故郷からの脱出を図るウイグル人の少女の姿を追っている。
AIによって収集された情報が、いつの間にか勝手に使われ、自分の人権が踏みにじられる。中国政府が最先端技術を使って作り上げた最悪の社会だが、それは、日本人にとっても決して人ごとではない。
『AI監獄ウイグル』は税込み価格2420円。全国の書店で販売されている。