ビジネスと人権 ©The Tokyo Post
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経済産業省が「人権DD」推進のガイドライン案を公表 パブリックコメントを募集

経済産業省は2022年8月8日、企業がサプライチェーン(供給網)上での人権侵害を把握し、改善に取り組むための「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」案を公表し、パブリックコメントを開始した。8月29日まで受け付け、寄せられた意見を踏まえて最終決定する。

人権を尊重したビジネスの指針を示す

企業が国際的な取引を行う中で、強制労働や児童労働、劣悪な労働環境などの人権侵害が取引先で行われていないかをチェックする取り組みが広がりを見せており、人権への無関心はビジネス上のリスクとなっている。こうしたことから、人権侵害を軽減し、予防するための企業としての行動指針を国が提示することになった。

ガイドラインの策定には、国際労働機関(ILO)駐日事務所なども参加。経産省内に「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を設置して検討を重ねてきた。日本企業の本社や海外拠点だけでなく、取引先や関係企業など供給網に関わるすべての企業で、人権を尊重した事業活動が行われているかどうか確認するよう努めることが必要だとしている。

ガイドライン自体に法的な拘束力はないが、国は企業に積極的な活用を促し、日本でも人権尊重への継続的な取り組み「人権デューデリジェンス」への意識の向上を図る。高﨑真一・ILO駐日代表は「人権を尊重した企業活動はILOが注力する『ビジネスと人権』の屋台骨。人権尊重なくして持続的な企業活動は不可能だ」と指摘している。

技能実習生の問題点も指摘

今回のガイドライン案では強制労働や児童労働、差別など世界的な課題となっている問題のほか、日本特有の問題として技能実習生への人権配慮についても示した。技能実習生のパスポートを保管したり、貯蓄を管理する契約を結んでいたりする違法なケースが見られるとして、取引先が違法な働き方をさせていないか確認し、違法な状況を認めれば取りやめさせることを求めている。

また、問題が見つかった場合の対処方法や注意点も示し、「取引停止」は企業の経営状況が悪化して雇用が失われ、人権への影響がさらに深刻になる懸念があると指摘。まずは取引関係を維持しながら、負の影響を防止・軽減するよう努め、取引停止は、最後の手段として検討すべきだとした。

一方、海外で「国家などの統治者の関与」のもとで人権侵害が行われている場合には、企業が人権侵害の把握や対策が難しいことから、取引停止も検討する必要があるとした。

また、紛争地域で事業を行っている企業には、急激な情勢悪化などの際、ステークホルダーへの影響を可能な限り緩和し、責任ある形で撤退する「責任ある撤退」も可能だとした。