夕焼けの東京スカイツリー 画像:shutterstock
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PBCとは?「新しい資本主義」で公益重視の新たな企業が誕生か「新しくない」の声も

岸田文雄首相が提唱する「新しい資本主義」の実現に向けた具体化策を話し合う「新しい資本主義実現会議」が、社会的な課題の解決を事業の目的とする新たな会社形態「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」(PBC)についての検討を始め、注目を浴びている。2022年5月16日には日本経済新聞オンライン版が独自ニュースとして報じたが、実現には疑問の声もある。

短期的な利益にとらわれず社会課題の解決に貢献

「新しい資本主義実現会議」は岸田首相を議長に21年10月に設置。山際大志郎・新しい資本主義担当相や松野博一官房長官ら閣僚のほか、十倉雅和・経団連会長や芳野友子・連合会長、ベンチャー「シナモン」創業者の平野未来社長、AI研究者の松尾豊・東大院教授ら有識者15人がメンバーとして選ばれた。これまで6回の会議が行われ、最近では4月28日に開催された。

第6回会合では、デジタル田園都市国家構想や光ファイバー・5Gなどのネットワーク整備、民間の公的役割がテーマとなり、新たな企業の形態としてPBCについても議論された。会議では平野社長が「しがらみなく新たなイノベーションを創造する原動力として、価値創造を最大化すべく(PBCの)真剣な検討に早急に入るべきだ」と述べるなどPBCの導入に向けた議論の必要性を指摘。ほかの出席者からも導入に前向きな意見が出された。

日経によると、PBCは株主の利益だけではなく、公益に資する事業に率先して取り組むと明示した会社形態。企業は貢献を目指す公益を定め、公益と株主の利益のバランスを取りながら経営を進める。これによって、短期的な利益を求める株主の意見にとらわれすぎず、中長期的な社会課題の解決を目指す事業に投資できる。

米国では10年にメリーランド州が初めてPBCに関する法律を整備。その後、40近い州で立法化されており、米国の制度を参考に制度設計する予定だという。

米国では、アウトドア用品のパタゴニアやメガネ販売のワービー・パーカーがPBCの代表として知られている。パタゴニアはオーガニックコットンの使用や、売り上げの1%を環境保護グループに寄付するといった取り組みをしており、ワービーは顧客がメガネを1つ購入するたび、経済的に恵まれない人にメガネを1つ無償などで提供する。

日経編集委員から「新しさない」と批判出る

過度な株主至上主義から転換を図る企業形態として期待を寄せられているPBCだが、日本への導入に対して、思わぬところから批判の声が上がった。5月18日付日経オンライン版に掲載された小平龍四郎編集委員の記事だ。

記事で小平編集委員は、定款で会社の使命を「患者様満足の増大」と定めるエーザイや、「国連のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献」を定款に盛り込んだユーグレナの例を挙げ、「経営者の意思があれば現行の会社法でも公益の追求は十分に可能だし、丁寧に説明すれば株主の理解を得られる」と指摘。「『新しい資本主義』とぶちあげるほど新しさはない」とした。

また、「公益重視や環境・人権保護などの大切さは言うまでもない」としながら「資本市場の苛烈な現実から目を背ければ、経済を突き動かすアニマルスピリッツ(血気)が減退しかねない。それは新しい・古いを問わず資本主義の危機だ」とも主張した。

日本社会の成長が終わり、世界的にも資本主義が疲弊しているといわれるなかで、新自由主義経済を推進し経済復活をめざすのか、「新しい資本主義」でサステナブルな社会をつくるのか。そして、企業がどのように社会に貢献し、公的役割を果たすべきなのか、まだまだ議論が必要なようだ。