建国以来最も低い出生率に危機感を覚える中国政府が、出産奨励金や減税、教育面での優遇措置など様々な出産奨励策を講じている。自治体によっては、現金給付に加えて、第2子、第3子に育児休業の延長といった施策を打ち出すところもある。そんななか、シングルマザーには検診や育児休業を支える保険の適用がされないなど不利益が続いており、シングルマザーたちが各地で声を上げ始めた。
未婚での出産は「中国の国家政策に合致しない」
ニューヨークタイムズによると、人口抑制のために長らく一人っ子政策を続けてきた中国では、家族計画法により、妊娠した女性とその夫が公営の病院で検診を受けるためには、役所に婚姻を届けて証明を受け取らなければならなかった。家族計画法には未婚女性は子供を持てないとは明記していないが、母は既婚女性であると定義しているという。
北京に暮らす46歳の女性は、妊娠に気づいたときにはボーイフレンドと別れていたが、子供を持つには最後のチャンスかもしれないと考えて出産を決意。病院には「夫は海外にいる」と嘘をついて出産を受け入れてもらった。2016年11月に娘を出産した彼女は8ヶ月後、会社をクビになったため、差別だとして会社を訴えたが、「結婚していない母親は法的便宜も保護も受ける資格がない」ことを理由に2度、敗訴。判決は、未婚での出産は「中国の国家政策に合致しない」とも述べた。
とはいえ中国の現実は政府の思惑とは違うところにある。若者の婚姻率は徐々に下がり続け、昨年は過去36年間で最も低くなった。急速な経済発展を遂げる中で成長してきた女性たちは、経済力と共に手にした自由と独立を簡単に手放そうとは思わない。
政府は独身女性が出産するときに支払わなければならなかった「社会支援」料という名の、事実上の罰金を昨年廃止したが、運用は地域によって違い、自治体によってはこの変更は浸透していない。湖南省は現在は全土で違法とされる独身女性への不妊治療の提供を検討すると発表したが、その後進展はない。
シングルマザーは育児休業制度も使えず、会社もクビに
昨年、APが報じたところによると、中国国内にひとり親家庭がどのくらい存在するのか、公式な統計はないが、2014年に実施した統計からの推測によると、シングルマザーは2000万人近くいると考えられると国家健康委員会は2020年に発表した。
権利を求めるシングルマザーの戦いを報じたこの記事によると、投資銀行で働き高額の収入があった40歳の女性は、別れた彼氏との間の子を1人で産んで育てたが、病欠扱いの間は3万元(約62万円)の月給は1,000元(約2万円)に落とされ、本来であれば育児休業の間は無休だったという。育児休業の間の給与は本来、会社が加盟している保険から支払われるが、会社は「婚姻証明がないために書類が不備で申請ができない」として保険申請を拒否。抗議すると退職を迫られ、拒否するとクビになった上、次の就職に必要な退職証明の発行まで拒んだという。この女性も裁判を起こしたが、独身であることを理由に二度敗訴している。
広東省、上海市が方針転換
ニューヨークに拠点を置く中国情報サイトSupChinaによると、上海市は2020年末に方針を変更し、シングルマザーも婚姻証明なしに様々な便宜を受けられるようになったという。会社と当局を相手取った裁判で負け続けた女性も、育児休業中の給与を受け取った。
婚姻証明にこだわらない姿勢に転じたのは上海が二番目で、最初に方針転換したのは広東省だったという。以前は、地域によっては、シングルマザーの子供には健康保険や教育の機会に全てつながる「戸口」と呼ばれる身分証明が出ないこともあったという。