参院選2022 ©The Tokyo Post
参院選2022 ©The Tokyo Post

参院選で「改憲勢力」が3分の2に その実態は

2022年7月10日に投開票された参議院選挙の結果、憲法改正に前向きとされる政党の議席数が、憲法改正のための国会発議に必要な総議員の3分の2以上となった。岸田文雄首相は選挙の結果を受けて、11日に自民党本部で党総裁として記者会見し、「出来る限り早く発議にいたる取り組みを進める」と憲法改正に意欲を見せた。

改憲勢力は4党95議席

共同通信の集計によると、同選挙で当選した議員のうち、憲法改正に前向きなのは95人。非改選の議席と合わせると179議席で、国会発議に必要な166議席を上回った。

共同通信によると95議席の内訳は自民党:63、公明党:13、日本維新の会:12、国民民主:5、無所属:2。これに対し、立憲民主党は憲法改正に慎重な姿勢で、共産党、社民党、れいわ新選組は改憲に反対している。また、NHK党は憲法改正に賛成し、新たに1議席を獲得し政党要件を得た参政党は自主憲法制定を訴えているが、共同通信は「改憲勢力」の数に含めていない。

衆議院でも21年10月の衆院選の結果、「改憲勢力」は345議席を獲得。3分2の310を大きく上回る議席を確保した。

「3分の2確保」でも改憲が進まないわけ

憲法改正について、自民党は「自衛隊の明記」「緊急事態対応」「参議院の合区解消」「教育環境の充実」の4項目を掲げて必要性を訴えている。維新も自衛隊の明記のほか、緊急事態条項、教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置などを具体的に主張。国民民主は緊急事態条項の創設の必要性を認めているが、憲法9条については「具体的な議論を進める」とするにとどまっている。

また、公明は「憲法9条の堅持」を主張し、自衛隊の明記や緊急事態対応については検討、議論を続けていくとするなど、自民や維新などとはややスタンスが異なっており、「改憲勢力」と言っても、憲法改正の方向性が一致しているわけではない。

実際に憲法改正の発議を行う際には、具体的な条項を改憲原案として示さなくてはならず、「改憲勢力」といわれる政党の間でも、現在のところ、一致できる可能性が高いのは「緊急事態条項の創設」しかない。憲法改正の議論で必ず取り上げられる「9条改正」は、非常に難しいというのが現状だ。

「改憲勢力」の議席数が、選挙の争点として扱われることについて、弁護士の楊井人文氏は11日、ヤフーニュースのコメントで「メディアが勝手に名付けている『同床異夢の改憲勢力』がいくら多くの議席をとっても、改憲プロセスは前進しないことは証明されている」と指摘。2013年の選挙以降、各メディアが「改憲勢力が3分の2を超えた」と報じているにもかかわらず、現実に全く進んでいないのは「メディアのいう『改憲勢力』が、何ら実態を伴わない恣意的な『カテゴライズ』」だったからにほかならない」と、ことさらに「改憲勢力」を強調する報道は誤りだとしている。

憲法がこのままでよいとは思わない、という認識は共通するものの、「どのように」改正するかについては各々でロジックが違う。岸田総理は故安倍晋三元総理の思いを引き継ぐとして憲法改正への意欲を表明した。果たして合意形成が得られるのか、また見送りか、そのリーダーシップが問われる。