米連邦最高裁は2022年6月24日、人工妊娠中絶を「憲法上の権利」と認めた1973年の判例を覆し、人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定した。中絶の合法性判断は各州に委ねられたが、保守的な州では規制の強化が始まっている。この判断に対しては、「女性の権利を奪う」として世界各国から批判の声が上がっている。
判断を受け半数の州が中絶の禁止を検討
妊娠15週以降の人工中絶を原則禁止するミシシッピ州の法律が憲法違反にあたるかどうか争われた裁判で連邦最高裁は、州法は合憲だとの判断を下した。
26日付時事通信は、中絶の権利を擁護する米団体「グットマッカー研究所」が報告した人工中絶に関する各州の反応を報じた。それによると、50州のうち半数を超える26州が一定の条件下で中絶禁止を検討。レイプや近親相姦の被害者も例外としない州もある。
「全米一厳しい」と言われるオクラホマ州は、中絶手術の実施を「重罪」と規定し最長10年の禁錮刑を科す方針だという。中絶を思いとどまらせるためカウンセリングを義務化したり、受診までの待機期間を設けたりと、州によってさまざまな規制がとられる。
一方、人工中絶への規制が緩やかな州では、規制が厳しい州から患者が殺到する事態にもなっている。このため、女性の金銭的な負担が増えることが懸念され、時事通信は、米グットマッカー研究所、エルミニア・パラシオ会長の「中絶規制は低所得層に特に影響が大きい」との指摘を伝えている。
「安全、安心な中絶は人権」とSHELLYさん
今回の米連邦最高裁の判断は米国以外の国にも波紋を広げている。性教育について積極的に発信しているタレントのSHELLYさんはInstagramで、「耳を疑う結論」「安全な中絶にたどり着けなくするもの」などと批判した。
SHELLYさんは投稿で、「違法となってしまう地域に住んでいる人はお金や権力がないと仕事や学校を休んでまで中絶をしにいけません。そうなると近場で安く済まそうと、危険な方法で中絶しようとします」と指摘。「安全で安心、安価で手の届く中絶は子宮のある人にとって人権であり、守られないといけない」と主張した。
また、世界のリーダーからも非難の声が上がっている。ハフポスト日本語版(27日付)によると、カナダのトルドー首相はTwitterに「米国から届いたニュースは恐ろしいものです」と投稿。「私の心は、中絶をする法的な権利を失いそうになっている何百万人もの米国の女性とともにあります」として、中絶の権利を求める声に寄り添った。
フランスのマクロン大統領も「中絶はすべての女性にとって基本的な権利。それは保護されなければなりません」などとツイートし、中絶規制への反対を表明した。
今回の連邦最高裁の判断には、保守的なトランプ前大統領のもとで、保守的な考えを持つ判事が多数任命されたというは背景があり、バイデン大統領は24日、「最高裁は憲法上の権利を国民から取り上げた。悲劇的な過ちだ」などとホワイトハウスで演説。11月の中間選挙で民主党に投票するよう呼びかけた。