画像:shutterstock 暗殺されたノーバヤ・ガゼータ紙評論員アンナ・ステパーノヴナ・ポリトコフスカヤの追悼(2020年10月サンクトペテルブルク)
画像:shutterstock 暗殺されたノーバヤ・ガゼータ紙評論員アンナ・ステパーノヴナ・ポリトコフスカヤの追悼(2020年10月サンクトペテルブルク)

ロシアで発行停止「ノーバヤ・ガゼータ」紙がラトビアで新生 ロシアの今伝える

ロシアのウクライナ侵攻以来、活動停止を余儀なくされている独立系新聞の「ノーバヤ・ガゼータ」。4月7日に元記者らが新たにウェブ上で「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」 を創刊し、ジャーナリズムを維持すべく奮闘している。

ラトビアに“亡命”した「ノーバヤ・ガゼータ」始動

ロシアの「ノーバヤ・ガゼータ」は1993年の創刊。「新しい新聞」という意味がある。立ち上げ資金を提供したのは、ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領。ノーベル平和賞の賞金を創刊資金にあて、現在も株主である。編集長のドミトリー・ムラトフ編集長は創刊の時から関わっており、現在まで24年間編集長の席にある。 昨年、ムラトフ編集長がフィリピンのマリア・レッサ氏と共にノーベル平和賞を受賞したことで同紙は一躍その名を世界に知られることになった。

同紙ではこれまでに記者や寄稿者6人が殺害されている。世界に大きな衝撃を与えたのは、チェチェン紛争を追い、プーチンを批判していたアンナ・ポリトコフスカヤ記者の殺害だ。2006年、自宅アパート建物のエレベーター内で射殺体で見つかった。ムラトフ編集長も先月、電車内で襲撃を受け、見知らぬ人間から赤いペンキをかけられている。

見えない圧力に苦しみながらもプーチン政権への批判的姿勢を崩さなかった同紙だが、ロシアのウクライナ侵攻以来、発行停止の危機にさらされ、ロシア国内での新聞発行を見合わせる事態に追い込まれている。

そんな中、隣国ラトビアを拠点としてスタートしたのが「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」。本体の副編集長でもあるキリル・マルティノフ氏が編集長を務めるが、「ノーバヤ・ガゼータ」からは独立した編集体制をとっているという。

「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は4月7日からウェブサイトやSNSで、ロシア語と英語で記事の提供を開始。記事の多くがロシア国内ではもはや報道できない類のもので、たとえば、ロシア各地の教育現場の混乱も取り扱っている。

「前線と化した学校」と題された4月20日付の記事によると、3月初め、ロシア国内の大半の学校で「平和教育」という授業が開かれ、教師たちは「ロシアとウクライナの人々の統一」を強調。ウクライナ東部のドネツクとルガンスク地方の独立を承認するといった政府見解に沿った教材を使って、政府が定めた方針に沿った授業をし、かつ授業を行った証拠を写真かビデオで当局に提出することを教師たちは義務付けられている。また、本来授業では扱わないことになっている「政治」が教室に入り込み、スクールバスにはロシア軍を意味する「Z」の文字が入れられ、生徒たちはロシア国防省広報官らのオンライン授業を受けさせられているという。

そして、こうした方針に従わず、「私は政府のプロパガンダを映す鏡にはならない」とインスタグラムに書き込んだ教師や、ウクライナ系であることを誇りにし、「(ロシア軍の)特別軍事作戦を支持しない」と発言した教師らが即刻解雇の憂き目にあったりしているという。

創刊にあたっての社説

「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」のウェブサイト開始にあたり、マルティノフ編集長はこう宣言している。

「ロシアはプロフェッショナル・ジャーナリズムを禁じた。ロシア政府は、ロシア市民と世界が我々を最も必要としているときに、我々を打ち消した。事実に基づく独立報道が今ほど必要とされている時はない。人々は壊滅的な戦争とそれがロシア社会にもたらず被害について真実を知りたいと思っている。(中略)4月20日、私たちは本格的なヨーロッパメディアとして新たなウェブサイトを立ち上げた。クレムリンがどう考えるかに構うことなく、私たちはこの場でロシアとウクライナでの戦争について真実を伝えていく」

https://novayagazeta.eu/articles/2022/04/20/bringing-europe-to-you

独立系の世論調査によると、ロシア国民の83%がプーチン大統領を支持しているという結果に世界で驚きが広がったが、その背景のひとつには、国民の多くが政府系の報道にしか接していないことがあると言われている。

政府の圧力に怯えることなく、「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」がラトビア発の報道を続け、監視の目をかいくぐってロシア市民がこうしたニュースに接することができれば、ロシア国内の世論にも変化が起きるのだろうか。