画像:shutterstock 原子力発電所
画像:shutterstock 原子力発電所

岸田首相の「原子力発電の活用」発言増え再稼働の兆し? 野党は反発

岸田文雄首相は2022年4月12日の衆議院本会議で、安定的なエネルギー確保のために、原子力を含めたあらゆるエネルギー源を活用していくとの認識を示した。ロシアによるウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が高騰するなか、岸田首相や自民党から原子力発電の活用に関する言及が増えている。これに対し、野党からは懸念の声も上がっている。

「原子力を含めあらゆるエネルギー源を活用」と岸田首相

末松義規議員(立憲民主)の質問への答弁で、岸田首相は「資源の乏しいわが国としては、安全保障体制と事業者規制の両面から原子力発電所の安全を確保したうえで、安価で安定したエネルギーを確保するため、原子力を含め、あらゆるエネルギー源を活用していく」と述べた。

末松氏は、ロシアがウクライナ国内の原発を攻撃したことを踏まえ、「いまこそ原発廃止政策を進めていくべきときだ」と首相の考えを質した。これに対し、岸田首相は、原発へのミサイル攻撃にはイージス艦やPAC3で対応し、事態対処法や国民保護法などのもとで、原子力施設の使用停止命令、住民避難等の措置を準備していると答弁。「日米同盟の抑止力や対処力を強化し、わが国に対する武力攻撃が発生しないよう取り組んでいくことが重要」と述べた。

岸田首相はロシア産石炭の輸入禁止を表明した8日の記者会見でも、「再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安保、脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用を図っていく」と表明。また、3月31日の衆院本会議でも「原子力は脱炭素のベースロード電源で、安定供給確保の観点から重要だ」と述べている。

「ウクライナに絡ませるのは火事場泥棒」との批判も

ロシアへの経済制裁に絡め、岸田首相が原子力発電の活用に再三言及していることについて、12日の時事通信オンライン版は「対ロシア制裁で石炭の段階的輸入禁止に踏み切ったことで、電力供給が綱渡りになるとの懸念が拡大したことが背景にある」と指摘。「原発に対する世論の根強い不信感を念頭に、安定的なエネルギー源として活用が可能か見極めたいとの思惑もありそうだ」と首相の真意を推し量っている。

経済産業省によると、石炭には主に発電用に使う「一般炭」と、製鉄の生産などに使う「原料炭」があり、2019年の石炭輸入量のうち、一般炭の12%、原料炭の7%をロシアから輸入しているという。一方で、再生可能エネルギーを急激に増やすことは、設備やコストの面で容易でなく、太陽光発電や風力発電などは天候にも左右される。

実際に2022年3月16日に福島県沖地震が起きた際、政府は火力発電所が停止するなどの影響を受けて、東京電力や東北電力管内で停電の恐れがあるとして、初の「電力需給逼迫警報」を発令した。今後、石炭不足が深刻になれば、同様の事態が起こりかねない。

時事通信によると、こうした状況に政府関係者からは「(代替エネルギーは)原発しかない。このままだと12月以降、大停電が起こるかもしれない」と危機感を募らせているという。自民党も4月11日にまとめた緊急経済対策の提言案で、「電力の安定供給の確保に向けて、原子力を含め、あらゆる電源の最大限の活用を進める」と明記した。

再稼働に向けた原子力規制委員会の審査に対しても、自民党内には「先延ばしを繰り返し、責任逃れをしている」との不満の声があるという。

一方、こうした政府や自民党の姿勢には、野党から批判の声が上がっている。時事通信は立憲民主党の馬淵澄夫国対委員長が「(原発再稼働を)緊急避難的に物事を進めようという発想があるなら大きな間違いだ」と述べたと伝えた。れいわ新選組の山本太郎代表も「ウクライナに絡ませるのは火事場泥棒だ」とけん制したという。

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