東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国として、クーデター後のミャンマー軍事政権とASEANの間の調整に入り、ウクライナ情勢などに絡んで岸田文雄首相と会談するなど、カンボジアのフン・セン首相(70)が外交の舞台で存在感を高めているが、3月半ば、最大野党のリーダー19人に「扇動」や「陰謀」の罪で新たに有罪判決を下すなど、反対勢力への圧力をいっそう強めて、人権団体から批判を浴びている。(写真出典:首相官邸ホームページ)
100人以上の集団裁判
3月17日付のニューヨーク・タイムズによると、カンボジアの裁判所はサム・ランシー党首やケム・ソカ副党首、野党議員エン・チャイ・イアンなど、最大野党カンボジア救国党(CNRP)幹部らに5年から10年の懲役刑を言い渡した。彼らには昨年、政府転覆の企ての疑いで、懲役20年以上の有罪判決が既に下されているが、フランス在住のサム・ランシーはじめ、多くは既に国外に逃れている。一連の裁判は1年以上続いており、政府に反対する人々100人以上が裁判にかけられている。
検察側は、新たに有罪とされた19人が「秘密のネットワーク」を作り、カンボジアの経済を混乱させ、軍に不服従を働きかけ、新型コロナウイルスの蔓延を政府への不信を煽る材料として使っていると断罪した。
カンボジア救国党は2017年、フン・セン派の最高裁によって解散を命じられており、これによって野党勢力を失ったカンボジア下院では2018年の総選挙でフン・セン率いる与党カンボジア人民党が125議席全てを独占している。
カンボジアは長い内戦の後、1992年から93年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の管理を経て、立憲君主制となった。当初はさまざまな政党やNGOが花開き、1993年にはカンボジア・デイリー紙も創刊されるなど自由が広がったが、この20年、1998年から第一首相の座にあるフン・センによる独裁色が強まった。
劣悪な刑務所の状況
国連人権委員会によると、カンボジアの刑務所に収容されている受刑者の数は、2015年からの6年間で倍増して38,977人となっている。2020年3月から2021年1月にかけてカンボジアの刑務所を調査した委員会によると、収容率は実に343%で、受刑者は十分な眠る場所もきれいな水も、きれいな空気さえない状況に置かれているという。
https://www.ucanews.com/news/cambodias-prison-population-doubles-in-six-years/96504
新型コロナウイルス感染拡大を口実に規制
こうした状況に、NGOヒューマンライツウォッチは、フン・セン首相が新型コロナウイルスの感染拡大を口実として、市民や野党勢力の活動を規制していると批判。カンボジアが新たに導入したCovid-19法は、政府が定めた措置に違反した者は最大20年間の懲役を科されることになっている。ヒューマンライツウォッチによれば、外出制限に違反した人がプノンペンの道端で竹の鞭で打たれる姿が報告されているという。
https://www.hrw.org/world-report/2022/country-chapters/cambodia
カンボジアでは2023年に総選挙が行われる予定で、フン・セン首相は長男で陸軍司令官のフン・マネット(44)を後継指名している。